判旨
身元保証人の賠償義務は原則として契約成立後の損害に限られるが、米麦の収穫・入庫時期等の経験則に照らし、契約成立後に生じたことが実質的に推認される場合には、立証がないとして賠償責任を否定することは許されない。
問題の所在(論点)
身元保証契約の成立後に発生した損害であることを要件とする損害賠償請求において、損害発生時期の立証が困難な場合に、経験則に基づき契約成立後の発生を推認できるか。
規範
身元保証人は、特段の事情がない限り、身元保証契約の成立後に生じた損害についてのみ賠償義務を負う。もっとも、損害発生の具体的時期が不明であっても、対象物の性質や生産・流通過程等の顕著な事実から、契約成立前に生じたとは考え難い特段の事情が認められる場合には、当該損害は契約成立後に生じたものと解すべきである。
重要事実
上告人と被上告人らとの間で、昭和28年10月20日に訴外Dに関する身元保証契約が締結された。Dの雇用期間中(昭和27年9月〜昭和29年11月)に管理していた米麦に計325俵の欠量が生じたが、原審は、この欠量が契約成立の前後いずれに生じたか不明であることを理由に、立証責任の原則に基づき被上告人らの賠償義務を否定した。なお、対象には昭和29年度産の米麦および昭和28年度産の米が含まれていた。
あてはめ
まず、昭和29年度産の米麦については、契約成立日(昭和28年10月20日)以前に欠量が生じることは論理的にあり得ない。次に、昭和28年度産の米についても、稲の刈取、乾燥、脱穀、俵詰を経て10月末頃に政府倉庫に入庫されるという顕著な事実に鑑みれば、契約成立日より前に多量の欠量が生じることは考え難い。したがって、特段の事情がない限り、欠量の大部分は契約成立以後に生じたものと推認するのが相当である。原審がこれを漫然と不明としたのは審理不尽・理由不備にあたる。
結論
身元保証契約成立後に損害が生じたものと認められるため、被上告人らは当該欠量による損害を賠償する義務を負う。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
契約成立後の損害発生が要件となる場合に、時間的経過や対象物の性質等の客観的事実を用いた「経験則による事実認定」の手法を示すものである。司法試験においては、身元保証責任の範囲や、立証責任の一般的原則に対する柔軟な事実認定のあり方を論じる際の参考となる。
事件番号: 昭和32(オ)973 / 裁判年月日: 昭和34年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被用者に身元保証法上の通知義務違反がない場合、使用者の監督過失が認められるとしても、直ちに身元保証人の賠償責任が否定されるものではない。 第1 事案の概要:被上告会社(使用者)の被用者である訴外Dが横領行為を行った。身元保証人である上告人は、被上告会社がDの不適格性(身元保証法3条1号・2号)を察…