判旨
身元保証法3条1号に基づく使用者の通知義務は、被用者の業務上の不適任・不誠実な事跡を具体的に覚知し得る場合にのみ生じ、巧妙な手段による不法行為を相当な注意を払っても防止できない状況下では、通知義務違反は認められない。
問題の所在(論点)
被用者の不法行為が巧妙であり、使用者において相当の注意を払っても防止・発見できなかった場合、使用者に身元保証法3条1号に基づく「不適任又は不誠実なる事跡」の通知義務違反が認められるか。
規範
「身元保証ニ関スル法律」3条1号は、被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があり、それによって身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを「知りたるとき」に使用者に対して通知義務を課している。この「知りたるとき」とは、相当の注意を払っても当該事跡を覚知し得ない場合には該当しないと解するのが相当である。
重要事実
訴外Dは、被上告会社において嘱託から社員に採用された。その際、上告人らはDの身元保証人となった。その後、Dは巧妙な手段を用いて本件不法行為を行ったが、被上告会社において相当の注意を払ってもこれを防止することができなかった。上告人らは、被上告会社が身元保証法3条1号に定める通知義務を怠ったと主張して、その責任を争った。
あてはめ
本件において、被用者Dの不法行為の手段・方法は極めて巧妙であった。そのため、使用者である被上告会社が相当の注意を払っていたとしても、Dに「業務上不適任又は不誠実なる事跡」があることを具体的に覚知することは不可能であったといえる。したがって、身元保証人の責任を惹起するおそれを「知りたるとき」という要件を充足せず、使用者に通知義務違反は認められない。
結論
身元保証法3条1号の通知義務違反は認められず、身元保証人は免責されない。本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
身元保証人の責任を制限する手段としての通知義務(身元保証法3条)の限界を画した判例。実務上、使用者の管理体制に落ち度がない場合には通知義務違反を問いにくいことを示しており、答案上では、過失相殺的・信義則的な減額(同法5条)の前段階としての通知義務違反の成否を論じる際の基準となる。
事件番号: 昭和31(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和34年12月28日 / 結論: 棄却
一 身元保証契約は、その中で保証人の責任の限度が約定されていなくても、公序良俗に反し無効であるとはいえない。 二 身元保証ニ関スル法律第五条は、同条所定の事情を職権探知事項とする趣旨ではなく、右の事情が訴訟にあらわれた資料によつて認められるときに、裁判所は職権をもつてもこれを斟酌すべきものとするにとどまると解すべきであ…