一、使用者が身元保証法三条所定の通知義務を怠つている間に、被用者が不正行為をして身元保証人の責任を惹起した場合において、右通知の遅滞は、裁判所が同法五条所定の身元保証人の損害賠償責任及びその金額を定めるうえで斟酌すべき事情とはなるが、身元保証人の責任を当然に免れさせる理由とはならない。 二、使用者が身元保証法三条所定の通知義務を怠つている間に、被用者が不正行為をして身元保証人の責任を惹起した結果、身元保証人が損害を被つた場合においても、使用者は、身元保証人に対して、右通知義務遅滞に基づく損害賠償義務を負わない。
一、使用者の身元保証法三条所定の通知義務遅滞と身元保証人の責任 二、使用者の身元保証法三条所定の通知義務遅滞と身元保証人に対する損害賠償義務
身元保証ニ関スル法律3条,身元保証ニ関スル法律5条,民法415条
判旨
使用者が身元保証法3条の通知義務を怠ったことは、同法5条に基づき賠償責任や額を定める際の斟酌事由にはなるが、当然に責任を免除させる理由とはならず、また別途損害賠償義務も生じない。
問題の所在(論点)
使用者が身元保証法3条の通知義務を怠った場合に、①身元保証人は当然にその責任を免れるか、②使用者は身元保証人に対して通知遅滞に基づく損害賠償義務を負うか。
規範
使用者が身元保証法3条所定の通知義務を怠っている間に、被用者が不正行為をして身元保証人の責任を惹起した場合、右通知の遅滞は、裁判所が同法5条に基づき損害賠償の責任及びその金額を定めるうえで斟酌すべき事情となる。しかし、通知遅滞は身元保証人の責任を当然に免れさせる理由とはならない。また、通知遅滞が同法5条の斟酌事情として考慮される以上、使用者は身元保証人に対し、別途通知遅滞に基づく損害賠償義務を負うことはない。
重要事実
被用者が不正行為を行い、身元保証人の責任が発生した事案において、使用者側には身元保証法3条所定の通知義務(被用者に不適任な兆候がある場合等の通知)に遅滞があった。身元保証人(上告人ら)は、この通知遅滞を理由に責任の免除、あるいは使用者に対する通知遅滞に基づく損害賠償請求権との相殺等を主張して争った。
あてはめ
本件において、使用者に通知義務の遅滞が認められるものの、身元保証法5条は「一切の事情」を考慮して裁判所が賠償責任の有無及び金額を決定することを認めている。通知遅滞はこの「一切の事情」に含まれるべき一事情に留まり、当然に保証債務を消滅させる性質のものではない。また、当該遅滞が5条の枠組みで賠償額の軽減(本件では100万円に軽減)として既に反映されている以上、重ねて使用者側の損害賠償義務を認める必要はない。
結論
通知遅滞は身元保証法5条による賠償額の算定において斟酌されるべき事情にすぎず、身元保証人の責任を当然に免れさせるものではなく、使用者の損害賠償義務も発生しない。
実務上の射程
身元保証人の責任制限に関するリーディングケース。答案上は、身元保証法5条の「一切の事情」の具体的内容として、使用者の通知義務違反を指摘し、賠償額を大幅に減額(本件では原審の100万円への軽減を維持)する方向で活用する。通知義務違反のみを理由とした「全額免除」や「反訴・相殺」の主張を否定する際に用いる。
事件番号: 昭和31(オ)265 / 裁判年月日: 昭和32年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】身元保証人の賠償責任を定めるにあたり、被保証人の横領行為が使用者の監督不行届に乗じて行われた場合には、使用者の過失を参酌して賠償額を決定するのが相当である。 第1 事案の概要:被上告人(組合)の従業員が、組合の不知の間に横領行為を行った。組合がこの横領行為を認知できなかった原因は、組合における従業…