昭和五二年七月の交通事故により死亡した満二歳の男児の得べかりし利益の算定につき、昭和五四年賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表中の産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均賃金額を基準として収入額を算定しただけで、その後の物価上昇ないし賃金上昇を斟酌しなかつたとしても、右算定方法は不合理なものとはいえない。
事故により死亡した男児の得べかりし利益の算定につき男子労働者の平均賃金額を基準として収入額を算定し物価上昇ないし賃金上昇を斟酌しなかつたとしても不合理ではないとされた事例
民法709条
判旨
交通事故で死亡した幼児の逸失利益を算定する際、男子労働者の平均賃金を基準とし、将来の物価上昇等を考慮しなくても不合理ではない。また、過失相殺の割合は、裁判所が公平の観念に基づき諸般の事情を考慮して決定する裁量事項である。
問題の所在(論点)
1. 幼児の逸失利益の算定において、男子労働者の平均賃金を採用し、将来の変動(物価・賃金上昇)を考慮しないことは許容されるか。2. 裁判所による過失相殺の割合の決定にどの程度の裁量が認められるか。
規範
1. 幼児の逸失利益算定において、賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の男子労働者の平均賃金を基準とすることは合理性を有する。2. 不法行為における過失相殺(民法722条2項)は、具体的な事案において公平の観念に基づき諸般の事情を考慮し、裁判所の自由な裁量によって決定されるべきものである。
重要事実
当時2歳の男児が交通事故により死亡した。原審は、当該幼児の将来の逸失利益を算定するにあたり、昭和54年賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の男子労働者平均賃金額(全産業・全企業規模・全学歴計)を基準とした。その際、将来の物価上昇や賃金上昇の斟酌は行わなかった。また、事故態様等を考慮し、過失相殺として損害額の10パーセントを減額した。これに対し、上告人が算定基準や過失相殺割合の不当性を主張して上告した。
あてはめ
1. 逸失利益について、幼児は将来の職業が未定であるが、全男子労働者の平均賃金を指標とすることは客観的な統計に基づく合理的な推計といえる。将来の不確定な物価変動等をあえて加味しない算定手法も、算定の安定性・公平性の観点から不合理とはいえない。2. 過失相殺について、原審は適法に確定した事実関係に基づき、被害者側の過失等を総合的に評価して10%の過失相殺を行っている。これは公平の観念に照らして裁量の範囲内であり、著しく不当とは認められない。
結論
幼児の逸失利益算定方法および10パーセントの過失相殺を行った原審の判断に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
幼児・児童の逸失利益算定において、男子なら男子平均、女子なら女子平均(または全労働者平均)の賃金センサスを用いる実務慣行の合理性を認める。また、過失相殺割合が事実審の裁量事項であることを強調しており、上告審での割合変更は「著しく不当」な場合に限られることを示している。答案上は、過失相殺の論述において「公平の観念に基づく裁判所の自由な裁量」という文言を規範として引用するのに適している。
事件番号: 昭和54(オ)214 / 裁判年月日: 昭和54年6月26日 / 結論: 棄却
交通事故により死亡した幼児の得べかりし利益の喪失による損害賠償を算定するにあたり、賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計一八歳ないし一九歳の女子労働者の平均給与額を基準として収入額を算定しても不合理とはいえない。