一、(省略) 二、過失相殺における過失をしんしゃくした割合は事実審の裁量に属する。
一、使用人の偽造手形の振出について民法七一五条の使用者責任が認められた事例 二、過失相殺の割合と事実審の裁量
民法715条,民法722条
判旨
従業員による手形偽造・交付行為が、その職務と密接な関連を有し、企業の活動の一環として捉えられる場合には、民法715条1項の「事業の執行について」なされたものと解される。
問題の所在(論点)
従業員による手形の偽造および交付という犯罪行為が、民法715条1項の「事業の執行について」なされたものといえるか。また、使用者責任における過失相殺の要否および割合の決定は裁判所の裁量に属するか。
規範
民法715条1項の「事業の執行について」とは、被用者の職務権限内の行為のみならず、職務と密接な関連を有する行為、および企業の活動の一環として捉えうる行為を含むと解する(外形標準説)。また、同条2項に基づく損害賠償額の算定において、被害者の過失を斟酌するか否か、およびその割合の決定は、事実審の合理的な自由裁量に委ねられる。
重要事実
被上告人(会社)の従業員Dが、被上告人名義の手形を偽造して振り出し、これを上告人(会社)に対して交付した。上告人は本件手形に関連して損害を被ったため、被上告人に対し、使用者責任に基づき損害賠償を請求した。原審は、Dの行為は職務と密接な関連があり、企業の活動の一環であるとして使用者責任の成立を認める一方、上告人の過失を考慮して過失相殺を行った。
あてはめ
Dの本件手形振出行為は、形式的には偽造という犯罪行為であるが、その実態はDの職務と密接な関連がある。さらに、被上告会社の企業的活動の一環として客観的に把握できる態様でなされている。したがって、外形的にみて「事業の執行について」なされたものと評価するのが相当である。また、上告人側の過失の程度が重過失にまで至らない場合であっても、裁判所は自由裁量により過失相殺を行うことができ、その具体的な割合の算定も事実審の裁量の範囲内である。
結論
従業員の手形偽造行為について使用者責任が成立する。また、被害者の過失を斟酌し、その割合を決定することは裁判所の自由裁量に属する。
実務上の射程
被用者の加害行為が犯罪的態様であっても、職務密接関連性や企業の活動としての外形を備えていれば「事業の執行について」を肯定する。答案上は、職務権限の有無だけでなく、外形的な関連性を具体的事実(手形交付の状況等)から認定する際に活用する。また、過失相殺の裁量についても言及可能である。
事件番号: 昭和44(オ)260 / 裁判年月日: 昭和45年5月22日 / 結論: 棄却
対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額につき、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、手形の所持人としてその前者に対し手形法上の遡求権を有することによつては、損害賠償の請求を妨げられることはない。