土地改良区の総代選挙において、立候補届出が受理された後に、当該候補者に被選挙権がないことが判明したとして、選挙の当日投票所に掲げた候補者氏名の掲示中に同人の氏名を表示しないで選挙を執行したことは、違法であり、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれの認められるかぎり、右選挙は無効である。
土地改良区総代選挙の候補者に被選挙権がないとして、投票所における候補者氏名の掲示中にその氏名を掲げないで執行した選挙の効力
土地改良法施行令17条の3(旧17条の2)
判旨
土地改良区の総代選挙において、選挙管理委員会等は適法な立候補届出を受理した後は、候補者の被選挙権の有無を実質的に審査して候補者から除外することはできず、終始候補者として取り扱わなければならない。この手続に違反して特定の候補者を掲示から除外した選挙執行は、選挙の公正を害する違法なものとして無効原因となり得る。
問題の所在(論点)
土地改良区の総代選挙において、選挙管理委員会等は、立候補届出を受理した後に候補者の被選挙権の有無を実質的に審査し、当該候補者を排除して選挙を執行することができるか。また、その排除が選挙無効の原因となるか。
規範
土地改良区の総代選挙において、選挙長等は立候補の届出の受理にあたり、候補者の被選挙権の有無を実質的に審査すべきではない。法は被選挙権のない者の投票を無効とする規定を置き、その判断は投票終了後の選挙会において行うことを予定しているからである。したがって、一度適法に届出が受理された以上、その後に被選挙権を欠く疑いが生じても、選挙終了まで終始候補者として取り扱う義務がある。
重要事実
土地改良区の総代選挙において、訴外Dが適法に立候補の届出を行った。しかし、町選挙管理委員会は、その後にDが組合員資格を欠き被選挙権がないと判断されたことを理由に、Dを候補者として取り扱わず、投票所の候補者氏名掲示からDの氏名を削除して選挙を執行した。これに対し、選挙の無効を求める審査請求がなされ、裁決で選挙無効とされたため、上告人がその取り消しを求めて争った。
あてはめ
本件では、法令上、立候補届出時に被選挙権の証明を要せず、また名簿送付の時期等に鑑みても、届出時に確定選挙人名簿への登録は要件とされていない。また、被選挙権の有無は投票後の選挙立会人の意見を聴いて決定すべき事項である(土地改良法施行令17条1項5号等)。それにもかかわらず、委員会が独断でDを候補者から除外し、掲示を行わなかったことは、選挙執行の公正を害する違法な措置といえる。この違法は選挙結果に異動を及ぼすおそれがあるため、選挙は無効と解される。
結論
適法に届出を受理された候補者を、被選挙権欠如を理由に除外して執行した選挙は違法であり、無効である。よって、本件選挙を無効とした裁決は正当である。
実務上の射程
選挙管理機関による立候補届出の「形式的審査権」の限界を画した判例である。行政庁に実質的審査権限がない場面で、実質的理由(被選挙権の欠如等)に基づき候補者を排除する行為が、手続の公正を害し選挙無効事由(公職選挙法205条1項等の法理と同様)となることを示す。答案では、行政の裁量や審査権限の範囲を論じる際の参照モデルとなる。
事件番号: 昭和27(オ)643 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
一 選挙長は、立候補届受理に際し、その者が公職選挙法第八九条に違反した候補者であるかどうかを審査する義務がない。 二 立候補届出期間経過後候補者を辞した者が公職選挙法第六八条第四項によつて再び候補者となることは違法ではない。
事件番号: 昭和42(行ツ)43 / 裁判年月日: 昭和42年9月28日 / 結論: 棄却
選挙人名簿調製機関が選挙人の補充選挙人名簿の登録申請を妨げた違法は、名簿の脱漏として、法定の選挙人名簿修正争訟によつて争うべきであり、選挙の無効の理由となるものではない。
事件番号: 昭和43(行ツ)92 / 裁判年月日: 昭和44年7月15日 / 結論: 棄却
いわゆる選挙の人的一部無効が認められるのは、公職選挙法二〇五条一項により選挙の地域的一部無効を生じ、その結果、同条二項以下の規定により選挙の人的一部無効を生ずる場合に限る。
事件番号: 平成1(行ツ)167 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 棄却
不在者投票の立会人が、立会いをしつつ併せて不在者投票事務の補助執行に従事していたため、立会人の監視機関としての役割を十分に果たすことができない状態にあったときは、その間にされた不在者投票は、公職選挙法四九条一項同法施行令五六条一項、二項の規定に違反した違法のものというべきである。