いわゆる選挙の人的一部無効が認められるのは、公職選挙法二〇五条一項により選挙の地域的一部無効を生じ、その結果、同条二項以下の規定により選挙の人的一部無効を生ずる場合に限る。
いわゆる選挙の人的一部無効と公職選挙法二〇五条
公職選挙法205条
判旨
公職選挙法205条1項にいう「選挙の一部無効」とは、選挙区内の一部地域(開票区等)における管理執行の違法を理由とする地域的一部無効を指し、特定の当選人のみを対象とする人的一部無効は認められない。候補者の氏名等を誤記した一覧表の掲示という執行手続の違法があり、得票差が僅少であれば、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとして当該地域(開票区)の選挙は無効となる。
問題の所在(論点)
1. 候補者氏名等の誤掲示という執行手続の違法が、選挙無効(公職選挙法205条1項)の原因となるか。 2. 選挙の一部無効として、地域的一部無効ではなく「人的一部無効」を認める余地があるか。 3. 再選挙を回避するための特段の計算方法(209条の2の準用等)を適用すべきか。
規範
1. 公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」とは、選挙の管理執行の手続に関する規定の違反をいう。 2. 「選挙の結果に異動を及ぼす虞」がある場合とは、違反がなければ当選人が異なっていた可能性がある場合を指す。 3. 同条にいう「選挙の一部無効」とは、地域的一部無効(開票区単位等)を意味し、実定法上の根拠を欠く人的一部無効(特定の候補者に関する無効)は認められない。
重要事実
徳島県議会議員選挙において、第一開票区内の投票所に、候補者の氏名や党派を誤って記載した一覧表が掲示された。この誤った掲示は公職選挙法175条の2に違反する。本件選挙における最下位当選者と最高位落選者の得票差はわずか1票であった。上告人は、影響を受けた投票者数が限定的であるとして、当選無効や人的一部無効にとどめるべきであり、開票区全体の選挙無効(再選挙)は過当であると主張して争った。
事件番号: 昭和27(オ)952 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
所論の不在投票用紙及び投票用封筒を交付するに際し選挙人名簿又は抄本と対照しなかつたという事実は原審も認めているけれども、しかし原判決の認定するところによれば、予め選挙人名簿に基き作成した投票所入場券を各地区の事情にもつとも通ずる駐在員をして選挙人名簿の抄本と対照して予め選挙人に交付してあり、不在者投票用紙及び投票用封筒…
あてはめ
1. 氏名等の誤掲示は管理執行手続の違反であり、候補者選択を誤らせる性質上、その影響範囲を正確に把握することは困難である。最下位得票差が1票である以上、この違法が選挙結果に影響を及ぼした可能性(異動を及ぼす虞)は明らかである。 2. 法が認める「一部無効」は地域的なものに限られる。本件のような執行の違法は、特定の候補者だけでなく、他の候補者への得票の増減に相互に連動するため、影響を特定の者に限定する人的一部無効は妥当ではない。 3. 再選挙に伴う不自然さは法が許容する範囲内であり、明文の規定(205条3項以下)を無視して209条の2を準用するような独自の計算方法を採用することはできない。
結論
本件第一開票区に関する選挙を無効とした原審の判断は正当である。公職選挙法上の「一部無効」は地域的一部無効に限られ、人的一部無効は認められない。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、執行手続の違法と結果への影響(異動の虞)を検討する際のリーディングケースである。特に「一部無効」の範囲について、人的一部無効を明確に否定した点に意義がある。答案では、客観的な選挙管理の瑕疵と、僅少な得票差を組み合わせて「異動の虞」を論述する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和44(行ツ)2 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
選挙人にあらかじめ配布された入場券が住所不明として返戻された場合において、当該選挙人であるとして入場券を持参しない者が投票に来たときは、投票事務従事者において「その理由をただし」、また、本人であることの確認には生年月日の対照をもつてすることが、選挙事務の取扱いとして至当というべきであるが、これを欠いたからといつて、その…
事件番号: 昭和35(オ)1467 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定」とは主として選挙の管理執行に関する規定を指し、当選人決定の際の被選挙権の有無の判断に誤りがある場合は、選挙無効の訴えの対象にはならない。 第1 事案の概要:本件選挙において、選挙会は訴外Dに被選挙権がないものと判断し、同人を当選人と定めなかった。上告人は、…
事件番号: 昭和51(行ツ)57 / 裁判年月日: 昭和51年10月8日 / 結論: 破棄自判
一、不在者投票をしようとする選挙人は、不在者投票用紙等の交付を使者によつて請求することも許される。 二、選挙管理委員会が使者による不在者投票用紙等の交付請求を受理するにあたつてなすべき右使者と称する者が真実の使者であるかどうかの確認は、真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情のない限り、その使者と称する者の選挙人何…
事件番号: 昭和42(行ツ)20 / 裁判年月日: 昭和42年4月15日 / 結論: 棄却
選挙人、候補者、選挙運動者等の選挙の取締りないし罰則違反の行為は、公職選挙法第二〇五条第一項にいう選挙の規定違反にあたらないものと解するのが相当である。