旧借地法第一二条(昭和四一年法律第九三号による改正前のもの)による地代増額請求権の行使による適正額の増額の効果は、増額請求の意思表示が相手方に到達した時に発生するものと解すべく、現行借地法第一二条第二、第三項が新設されても同条項施行前の増額請求については、同様に解すべきである。
旧借地法第一二条(昭和四一年法律第九三号による改正前のもの)による地代増額請求の効果の発生時期
借地法12条2項,借地法12条3項,旧借地法12条(昭和41年法律第93号による改正前のもの)
判旨
旧借地法12条(現借地借家法11条)に基づく地代増額請求の効果は意思表示の到達時に発生するため、賃借人は増額後の適正額を支払う義務を負い、従前の額のみの提供では原則として債務不履行となる。もっとも、信義則上これが債務の本旨に従った履行の提供とみられるような特段の事情がある場合には、解除は認められない。
問題の所在(論点)
地代増額請求がなされた場合における増額の効力発生時期、および増額後の地代の提供を怠ったことが直ちに賃貸借契約の解除事由となるか。また、解除後の賃料相当額の受領が解除の効力に影響を及ぼすか。
規範
地代増額請求権の行使により適正額の増額効果が生ずるのは、請求の意思表示が相手方に到達した時であり、裁判の確定を待たない。したがって、賃借人は請求時以降、適正額での履行提供義務を負うが、信義則上、債務の本旨に従った履行の提供とみなされる「特段の事情」がある場合には、債務不履行責任を免れ得る。なお、解除後に賃貸人が賃料相当額の供託金を受領しても、解除の効力を争い訴訟を維持している等の事情があれば、解除の効果は消滅しない。
重要事実
賃貸人(被上告人らの先代)は、借地人(上告人)に対し、旧借地法12条に基づき地代増額請求を行った。前訴の判決によって適正額が認定されたが、上告人は当該適正額の4分の1に満たない従前の地代額を提供し続けた。これに対し賃貸人は、債務不履行を理由として賃貸借契約の解除を主張した。上告人は、増額の効果は裁判確定まで発生しないこと、また解除後に供託金を受領したことをもって解除の無効等を争った。
事件番号: 昭和51(オ)657 / 裁判年月日: 昭和51年10月1日 / 結論: 棄却
宅地賃貸借契約の法定更新に際し、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しない。
あてはめ
本件では、増額請求の意思表示により既に適正額への増額効果が発生している。上告人が提供した地代は適正額の4分の1に満たず、従前の額を支払うのみでは原則として債務の本旨に従った履行とはいえない。また、本件の事実関係に照らして、従前の額の提供を正当化するような「信義則上の特段の事情」も認められない。さらに、賃貸人が解除後に供託金を受領した点についても、建物収去土地明渡訴訟を維持し解除の効力を主張し続けている以上、解除を撤回したとは認められない。
結論
増額請求後の適正額に満たない地代の提供は債務不履行を構成し、特段の事情がない限り、これによる賃貸借契約の解除は有効である。また、その後の供託金受領も解除の効果を左右しない。
実務上の射程
借地借家法11条(旧借地法12条)の形成権的性質を確認する重要判例である。実務上は、同条2項・3項による調整(相当と認める額の支払による履行遅滞回避)が導入されているが、本判決が示す「信義則による解除制限」の枠組みは、増額請求を巡る信頼関係破壊の有無を判断する際の一般準則として現在も機能する。
事件番号: 昭和41(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和42年2月24日 / 結論: 棄却
賃料が数次にわたつて値上げされたことや賃料が当該借地の固定資産税を上廻つていることは、一時使用のための賃貸借契約であると認定するについて妨げとなるものではない。
事件番号: 昭和41(オ)419 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
判示事情(判決理由参照)のあるときは賃料不払を理由とする賃貸借契約の判示解除は信義則に反し許されない。
事件番号: 昭和41(オ)315 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 棄却
適正賃料額による延滞賃料の合計額が八〇九九円であるのに、催告額が八三八二円四〇銭であつた場合には、右催告は適正の賃料額の限度において有効と解すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和45年2月27日 / 結論: 棄却
賃貸人が、借地上の賃借人所有の建物に対し占有移転禁止等の仮処分を執行したことにより、賃借人の借地の使用収益を妨げたとしても、そのために借地法一二条に基づく賃料増額請求が許されなくなるものではない。