一、退職金は、労働基準法第一一条にいう労働の対償としての賃金に該当し、その支払については性質の許すかぎり、同法第二四条第一項本文の直接払の原則が適用される。 二、退職金債権は同法第二四条第一項本文にかかわらず譲渡することができる。
一、退職金の支払と労働基準法第二四条第一項の適用 二、退職金債権の譲渡性の有無
労働基準法11条,労働基準法24条1項,民法466条
判旨
労働基準法24条1項の直接払の原則は、労働者本人の自由な意思に基づく賃金債権の譲渡までを禁止するものではない。そのため、退職金債権の譲渡は、譲渡禁止の特約等がない限り、同原則に反して無効となることはない。
問題の所在(論点)
労働基準法24条1項本文が規定する賃金直接払の原則は、労働者が賃金債権を第三者に譲渡することを禁止し、その譲渡を無効とする効力を有するか。また、退職金債権の譲渡が有効とされるか。
規範
労働基準法11条にいう賃金(退職金を含む)については、その支払につき同法24条1項本文の定める直接払の原則が適用される。しかし、同原則は使用者に対し労働者本人へ直接支払う義務を課すものであって、賃金債権そのものの譲渡性を否定するものではない。したがって、法律上の譲渡禁止規定や当事者間の譲渡禁止特約がない限り、労働者がその賃金債権を第三者に譲渡することは有効である。
重要事実
退職予定者である労働者Dは、自己の退職金債権のうち40万円分を被上告人に譲渡した。その後、第三債務者であるE株式会社(雇用主)に対して確定日付のある債権譲渡通知がなされた。一方、上告人は、Dに対する債務名義に基づき、当該退職金債権を差し押さえた。上告人は、賃金(退職金)債権の譲渡は労基法24条1項の直接払原則に反し無効であり、自己の差押えが優先すると主張して、被上告人による執行力の排除を争った。
あてはめ
まず、本件退職金は「労働の対償としての賃金」に該当し、労基法24条1項が適用される。しかし、直接払の原則は、支払の形態を規制するものであり、私法上の債権譲渡の効力までを制限するものではない。本件では、退職金債権の譲渡を禁止する法律上の規定は存在せず、当事者間での譲渡禁止特約も認められない。したがって、Dが被上告人に対して行った債権譲渡は有効であり、かつ上告人の差押えに先立って通知がなされている以上、被上告人は当該債権の取得を対抗できる。強迫による無効の主張も、原審の認定によれば事実の基礎を欠くか、あるいは直ちに無効とする理由にならない。
結論
本件退職金債権の譲渡は有効である。上告人の差押えに先立って有効な譲渡および対抗要件の具備がなされているため、上告人は当該債権に対する強制執行を主張できず、上告は棄却される。
実務上の射程
全額払原則に関する判例(小倉郵便局事件等)と並び、直接払原則が「支払の方法」を定めたものであり、債権譲渡などの「権利の帰属」を直ちに制約するものではないことを示す重要な判例である。答案上は、直接払原則の趣旨(中間搾取の排除)に触れつつ、債権譲渡の有効性を肯定する際の論拠として使用する。ただし、譲渡後の支払自体は、依然として直接払原則の拘束を受ける(譲受人への支払は原則として労基法違反となるが、譲渡自体は有効である)という区別に注意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)884 / 裁判年月日: 昭和37年10月23日 / 結論: 棄却
契約当事者の一方の代理人が同時に相手方のため代理行為をなした場合であつても、予め相手方の同意があるときは、右代理行為は有効である。