家督相続開始前、被相続人がその所有に係る一切の動産、不動産を挙げて相続人以外の者に贈与したとしても、これをもつてただちに公序良俗に違反する無効の契約とすることはできない。
家督相続開始前相続人以外の者に対してなした被相続人の全財産の贈与の効力
民法90条,旧民法1133条
判旨
全財産の贈与が当然に公序良俗に反するとはいえず、また、贈与の事実を否認するだけの主張には遺留分減殺請求の意思表示が含まれると解することはできない。
問題の所在(論点)
1. 被相続人が全財産を特定の人に贈与する行為が公序良俗(民法90条)に反し無効となるか。2. 贈与の事実を全面的に否認する主張の中に、予備的な遺留分減殺請求(旧民法1130条、現行民法1046条等)の意思表示が含まれていると解することができるか。
規範
1. 被相続人が全財産を贈与する行為は、旧民法下の家督相続制においても、直ちに公序良俗に反し無効となるものではない。2. 遺留分減殺請求権の行使(形成権の行使)には、単なる事実の否認を超えた積極的な意思表示が必要である。
重要事実
被相続人Dは、実子のいない後妻(被上告人)の将来を慮り、所有する不動産及び動産の一切を贈与した。これに対し、家督相続人である上告人は、第一審において贈与の事実自体を全面的に否認し、贈与が無効であると主張した。上告人は、この否認の主張の中に、仮に贈与が認められる場合には遺留分に基づき減殺請求を行うとの意思表示が含まれていると主張して争った。
あてはめ
1. 本件贈与は、実子のない後妻の生活を保障するという合理的な目的に基づくものであり、家督相続人に遺留分減殺請求権が認められている制度趣旨に照らしても、全財産贈与が当然に無効とはいえない。2. 上告人による贈与事実の否認は、単に事実の存否を争う性質のものである。遺留分減殺請求は、贈与の効力を前提としてその失効を求める積極的な意思表示を要するものであるから、事実の存否を争う防御的な主張に当然に含まれると解することは、意思表示の解釈として無理がある。
結論
本件贈与は有効であり、かつ、上告人が第一審で行った否認の主張をもって遺留分減殺請求権の行使と認めることはできない。
実務上の射程
遺留分減殺請求(現行法の遺留分侵害額請求)の意思表示の有無が争われる場面で、相手方の主張をどこまで広く解釈できるかの限界を示す射程を持つ。単に権利の発生原因(贈与等)を争うだけでは、時効中断等の効果を生じさせる意思表示としては不十分であるという実務上の教訓となる。
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