丁所有の不動産について、登記簿上の所有名義が丁から戊、戊から己に順次移転している場合に、丁から戊への移転登記は、戊において、何ら実質関係がないのに、丁の登記関係書類を偽造して経由したものであつても、その後、丁が右不動産を、己の所有名義とすることを承諾し、己に贈与し、戊が右の趣旨に従つて己のために移転登記を経由したものであるときは、己の登記は有効である。
偽造登記に続いて経由された登記が有効とされた事例
民法177条,不動産登記法26条
判旨
中間省略登記が行われた場合であっても、それが現在の実体的な権利関係に合致するものであるときは、その登記手続の経緯に不備があったとしても、当該登記は有効である。
問題の所在(論点)
登記手続が真実の物権変動の過程を忠実に反映していない場合(いわゆる中間省略登記がなされた場合)において、当該登記が現在の実体関係と合致しているときに、その登記を有効と認めることができるか。
規範
不動産登記は不動産の物権変動という実体的な権利関係を公示するものであるから、登記手続の過程に不備があったとしても、その登記が現在の実体的な権利関係と合致するに至っている場合には、その登記を無効とすることはできない。
重要事実
1. 上告人Aは、真実の所有者Dに無断で、本件家屋について自己名義の所有権保存登記を、本件各土地について贈与を原因とする自己名義への所有権移転登記をそれぞれ経由した。2. その後、真実の所有者Dは、被上告人Bに対し、本件家屋及び土地をB名義にすることを承諾して贈与した。3. これを受け、Aは自己名義の登記からB名義への所有権移転登記(中間省略登記に相当する形態)を行った。4. DからBへの権利移転を争う上告人らが、B名義の登記の有効性を争った。
事件番号: 昭和32(オ)1124 / 裁判年月日: 昭和35年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】負担付贈与において、受贈者が贈与者の老後の扶養を期待させるなどの負担を負っている場合、当該贈与が虚偽表示にあたるとは限らず、有効に成立し得ると判示された。 第1 事案の概要:贈与者Dが、被告(受贈者)に対し、調停に係る全財産の一部である本件不動産を贈与した。この贈与は、Dが自身の老後を被告に養って…
あてはめ
1. 本件家屋及び土地の真実の所有者Dは、被上告人Bに対しこれらを贈与し、Bの名義にすることを承諾している。2. したがって、Bは実体法上の所有権を取得しているといえる。3. たしかに、A名義の登記は無断・偽造によりなされた不実のものであったが、その後のB名義への移転登記は、現在の実体的な権利者であるBへの帰属を示すものである。4. ゆえに、B名義の登記は現在の実体的な権利関係に符合すると評価される。
結論
B名義の所有権移転登記は実体的な権利関係に符合し有効である。したがって、上告人らの請求は認められない。
実務上の射程
登記の「実体的有効要件」に関するリーディングケースである。物権変動の過程(中間過程)が不実であっても、現時点での権利帰属が登記と一致していれば登記を有効とする判断枠組みを示す。答案上では、中間省略登記の有効性や、不実の登記が後に実体関係と合致した場合の効力を論じる際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和34(オ)1062 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】農地の所有権移転につき都道府県知事等の許可または承認を要する場合、それらを得ないまま締結された贈与契約のみでは所有権移転の効力を生じない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人に対し、本件農地を含む不動産を贈与する契約を締結した。しかし、上告人はその後、本件農地を第三者(原審共同被控訴人D)に売り渡…
事件番号: 昭和34(オ)333 / 裁判年月日: 昭和36年9月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、後買主が登記を具備した場合、特段の事情がない限り、売主の前買主に対する登記移転義務は履行不能となる。また、中間省略登記がなされた場合であっても、それが実体上の権利関係に合致するものである限り、その有効性を否定することはできず、民法177条の対抗関係が維持される。 第1 事…
事件番号: 昭和30(オ)615 / 裁判年月日: 昭和32年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記の登記原因が事実と符合しなくとも、その登記が現在の実体的権利関係に合致している限り、当該登記は有効である。 第1 事案の概要:上告人は訴外Dから本件宅地を買い戻して所有権を取得した後、訴外Eに対してこれを贈与した。本件宅地についてはEへの所有権移転登記がなされていたが、その登記原因は実際…
事件番号: 昭和33(オ)177 / 裁判年月日: 昭和35年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】通謀虚偽表示による無効は、第三者に対しても原則として主張することができ、また、虚偽表示の当事者から仮装の売買契約に基づき登記を移転した者は、不動産登記法上の「第三者」(民法177条)には該当しない。 第1 事案の概要:不動産の本来の譲受人である被上告人に対し、上告人と譲渡人Dは通謀して、昭和16年…