判旨
負担付贈与において、受贈者が贈与者の老後の扶養を期待させるなどの負担を負っている場合、当該贈与が虚偽表示にあたるとは限らず、有効に成立し得ると判示された。
問題の所在(論点)
老後の扶養を期待してなされた不動産の贈与について、虚偽表示(民法94条1項)として無効になるか。
規範
虚偽表示(民法94条1項)の成否は、表意者が相手方と通じて真意でない意思表示をしたか否かにより判断される。贈与において、将来の扶養等の対価的意味を有する「負担」が介在する場合、贈与の意思は真意であると推認されやすく、通謀の認定を妨げる事情となり得る。
重要事実
贈与者Dが、被告(受贈者)に対し、調停に係る全財産の一部である本件不動産を贈与した。この贈与は、Dが自身の老後を被告に養ってもらうことを期待し、その「分前」として行われたものであった。上告人は、この贈与が虚偽通謀による無効なものであると主張した。
あてはめ
本件では、Dが被告に対して不動産を贈与するにあたり、自身の老後を被告に養ってもらうという具体的な期待(負担)が存在していた。このような扶養の期待という実質的な動機・目的が存在する場合、形式的な贈与の体裁を装ったものではなく、贈与の意思表示は真意に基づくものと認められる。したがって、被告との間で虚偽の意思表示を通謀した事実は認められない。
結論
本件贈与は虚偽通謀によるものではなく、有効である。
実務上の射程
親族間や親しい間柄での不動産移転が虚偽表示として疑われる事案において、移転の対価(扶養の合意や老後の世話等)が実質的に存在することを主張立証する際の根拠となる。判決文からは詳細な判断基準の提示はないが、事実認定のプロセスとして、負担の存在が贈与の真実性を裏付ける有力な事情となることを示している。
事件番号: 昭和31(オ)630 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死因贈与に近い文脈における意思表示の存否について、贈与者の健康状態や親族関係、贈与の不自然さを考慮しつつも、原審の証拠選択と事実認定を尊重し、意思表示の不存在や再審事由の存在を否定した。 第1 事案の概要:贈与者Dは、唯一の不動産である宅地建物を、妻や実子ら計6名の相続人の了解を得ないまま、孫G(…
事件番号: 昭和30(オ)615 / 裁判年月日: 昭和32年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記の登記原因が事実と符合しなくとも、その登記が現在の実体的権利関係に合致している限り、当該登記は有効である。 第1 事案の概要:上告人は訴外Dから本件宅地を買い戻して所有権を取得した後、訴外Eに対してこれを贈与した。本件宅地についてはEへの所有権移転登記がなされていたが、その登記原因は実際…
事件番号: 昭和32(オ)323 / 裁判年月日: 昭和35年3月17日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】追奪を免れるために名義を第三者に仮託する目的でなされた売買が、通謀虚偽表示に当たらない真実の売買と認められるためには、代金額、支払時期、登記手続の態様、費用の負担等の諸事情が経験則に照らして合理的であることを要する。 第1 事案の概要:上告人の父Fは、Dから山林を買い受けたが、Dの家督相続を巡る紛…
事件番号: 昭和42(オ)475 / 裁判年月日: 昭和44年2月25日 / 結論: 棄却
丁所有の不動産について、登記簿上の所有名義が丁から戊、戊から己に順次移転している場合に、丁から戊への移転登記は、戊において、何ら実質関係がないのに、丁の登記関係書類を偽造して経由したものであつても、その後、丁が右不動産を、己の所有名義とすることを承諾し、己に贈与し、戊が右の趣旨に従つて己のために移転登記を経由したもので…
事件番号: 昭和30(オ)724 / 裁判年月日: 昭和32年1月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の登記原因が虚偽であっても、その登記が現在の真実の権利関係と合致するものであるならば、当該登記は有効である。 第1 事案の概要:被上告人B1は、本件家屋の所有権を家督相続により適法に取得した。一方で、本件家屋についてはB2を権利者とする所有権取得登記がなされていたが、その登記原因とされた贈与…