判旨
追奪を免れるために名義を第三者に仮託する目的でなされた売買が、通謀虚偽表示に当たらない真実の売買と認められるためには、代金額、支払時期、登記手続の態様、費用の負担等の諸事情が経験則に照らして合理的であることを要する。
問題の所在(論点)
民法94条1項の「通謀虚偽表示」の成否に関し、紛争回避という動機から行われた異例な条件による売買について、外形的な事実関係のみをもって真実の意思表示があったと認定できるか。
規範
特定の目的(追奪の回避等)のために名義を仮託した疑いがある場合、当該売買が真実になされたものである(通謀虚偽表示でない)というためには、代金額、支払時期、登記手続の方法、費用の負担、目的物の引渡等の客観的状況について、経験則(通常は利益を得て転売すること、買主が登記費用を負担すること、代金引換で引渡を行うこと等)に照らし、首肯するに足りる特段の事情が認められなければならない。
重要事実
上告人の父Fは、Dから山林を買い受けたが、Dの家督相続を巡る紛争により所有権を追奪されることを恐れた。Fは、元裁判所書記官Gに相談の上、第三者に名義を移転させることを企図し、親族である被上告人に対し、Fが双方代理人となって本件山林を売却する形をとった。その内容は、代金は買値と同額の5万円、支払時期は「将来現金ができたとき」とする無期限の猶予、登記費用は売主Fの負担という極めて異例なものであった。
あてはめ
本件売買の動機は、所有権追奪を恐れ名義を仮託することにあり、真実の売買ではない可能性が高い。本件の条件(利益のない転売、代金支払時期の不知、売主による登記費用の負担等)は、真実の売買であれば通常は買主が負担し、利得を追求するという経験則に反する。親しい親族関係にあるという事情は、むしろ名義を仮託しやすい関係性を示すものであり、これらの異例な条件を合理化する「特段の事情」とはいえない。したがって、本件売買を真実と認定した原判決は理由不備または経験則に反する。
結論
本件売買が通謀虚偽表示でないとするには、経験則に照らし合理的な特段の事情が必要であり、現状の認定では通謀虚偽表示(94条1項)により無効とされる余地があるため、原判決を破棄し差し戻す。
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
実務上の射程
契約の動機に不自然さ(資産隠しや紛争回避等)がある場合、契約内容(代金・費用負担等)の合理性を厳格に検討すべきとする判断枠組みを示す。答案上は、94条1項の虚偽表示の成否を論じる際、単に形式的な合意の有無だけでなく、客観的事実から「真実の意思」の欠如を推認する際の具体的考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)326 / 裁判年月日: 昭和25年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他主占有から自主占有への転換が認められるためには、権原の性質上所有の意思がないものと認定される占有において、客観的にみて所有の意思があるものと解される事情が必要である。 第1 事案の概要:被上告人の先代Dは、本件不動産を「家産」として所有し、その散逸を防止するために上告人A1夫婦に管理させていた。…
事件番号: 昭和34(オ)632 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の取消しには、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることの証明を要するが、自白が真実に反することが証明された場合には、特段の事情がない限り、錯誤によるものと推認される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件不動産の所有権に基づき、上告人(被告)らに対して所有権移転登記の抹…
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…
事件番号: 昭和37(オ)1421 / 裁判年月日: 昭和38年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約における代金が時価に比して著しく低廉であっても、契約締結当時の諸事情や弁論の全趣旨を総合的に考慮した結果、直ちに当該契約を虚偽表示(通謀虚偽表示)として無効と断定することはできない。 第1 事案の概要:土地所有者Dの父Eが、Dの代理人と称して本件土地を上告人に売却したが、後にDと被上告人と…