時価二三七万円相当の土地につき代金四五万円を以てなされた売買契約であつても通謀虚偽表示にあたるものではないとされた事例。
判旨
売買契約における代金が時価に比して著しく低廉であっても、契約締結当時の諸事情や弁論の全趣旨を総合的に考慮した結果、直ちに当該契約を虚偽表示(通謀虚偽表示)として無効と断定することはできない。
問題の所在(論点)
売買価格が時価に比して著しく低廉であるという事実のみから、民法94条1項の通謀虚偽表示による契約の無効を推認することができるか。
規範
相手方と通じてした虚偽の意思表示(民法94条1項)の存否は、単に契約条件(価格等)の不均衡のみによって判断されるべきではなく、契約締結に至る経緯、当時の諸事情、及び弁論の全趣旨を総合的に考慮して判断されるべきである。
重要事実
土地所有者Dの父Eが、Dの代理人と称して本件土地を上告人に売却したが、後にDと被上告人との間でも売買契約が締結された。このD・被上告人間における売買価格は45万円であり、当時の時価(約237万円)と比較して著しく低廉であった。上告人は、この価格の低廉さを理由に、D・被上告人間の契約は虚偽仮装のものであると主張して、その無効を訴えた。
あてはめ
本件において、売買価格が時価の約5分の1という著しく低廉な価格であったことは事実である。しかし、裁判所は、単なる価格の多寡だけでなく、当該売買契約がなされた当時の具体的な事情や、訴訟における弁論の全趣旨を参酌している。これらの要素を総合すれば、価格が低廉であるという一事をもって、直ちに当事者間に真実の合意がない虚偽仮装の契約であると断定することはできない。原審が証拠に基づき確定した事実関係において、特段の事情がない限り、契約の有効性は否定されない。
結論
事件番号: 昭和35(オ)94 / 裁判年月日: 昭和37年3月13日 / 結論: 棄却
金銭消費貸借に基づく債権担保の目的のために、債務者所有の建物につき、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされた後に金銭が授受されたとしても右仮登記は有効である。
売買価格が時価より著しく低廉であっても、他の諸事情を勘案して真実の合意があると認められる場合には、虚偽表示として無効にはならない。
実務上の射程
虚偽表示の成否を論じる際、経済的合理性の欠如(不当な対価)は重要な事実上の推定要素となるが、本判決はそれのみで結論が決定されるものではないことを示している。答案上では、対価の不均衡を指摘した上で、他の「契約締結の経緯」や「動機」といった具体的事実と組み合わせて、94条1項の適用の是非を論じる際の評価の指標として活用すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
事件番号: 昭和32(オ)323 / 裁判年月日: 昭和35年3月17日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】追奪を免れるために名義を第三者に仮託する目的でなされた売買が、通謀虚偽表示に当たらない真実の売買と認められるためには、代金額、支払時期、登記手続の態様、費用の負担等の諸事情が経験則に照らして合理的であることを要する。 第1 事案の概要:上告人の父Fは、Dから山林を買い受けたが、Dの家督相続を巡る紛…