原審認定の事実関係のもとでは、土地賃借人の賃料債務の履行の提供ないし供託は約定の範囲を越えた土地の賃貸を右履行の受領により招来させるためのものであり、債務の本旨に従つたものとなすを得ない。
債務の本旨にしたがつた賃料債務の履行の提供にあたらないとされた事例
民法493条
判旨
債務者が約定の範囲を超えた目的物の利用を強いる意図で履行の提供または供託を行った場合、それは債務の本旨に従ったものとは認められない。
問題の所在(論点)
賃借人が、契約上認められた範囲を超えて土地を利用する権利を認めるよう強いる意図で賃料の提供等を行った場合、その提供は民法493条(または当時の供託法上の有効な供託の前提となる提供)にいう「債務の本旨に従った」ものといえるか。
規範
債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)といえるためには、単に客観的な給付内容が一致しているだけでなく、その提供が債権者に対し不当な負担を強いたり、契約の目的や信義則に反する付随的意図に基づいたりしてはならない。不当な目的を持って行われた履行の提供は、債務の本旨に従ったものとは認められない。
重要事実
上告人(賃借人)は土地の賃料について履行の提供および供託を行った。しかし、この履行の提供は、約定の範囲を超えた土地の賃貸という状態を、債権者(賃貸人)による受領を通じて既成事実化させるためのものであった。
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
あてはめ
上告人による履行の提供ないし供託は、単なる賃料の支払を目的とするものではなく、約定の範囲を超えた土地の賃貸という本来認められない法的効果を、債権者の受領という行為を通じて招来させるための手段としてなされている。このような不当な意図に基づく提供は、契約上の義務を誠実に履行しようとするものとは評価できず、信義則上、債務の本旨に従ったものとは認められないと解される。
結論
上告人の提供は債務の本旨に従ったものとはいえず、債務不履行責任を免れるための有効な履行の提供または供託とは認められない。
実務上の射程
本判決は、履行の提供の有効性を判断するにあたり、提供の態様や目的といった主観的・動機的側面が考慮されるべきことを示唆している。答案上は、提供に不当な条件が付されている場合や、相手方に契約外の義務負担を強いるような意図がある場合に、民法493条の「債務の本旨」該当性を否定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和39年7月16日 / 結論: 棄却
原審確定の事実関係のもとでは、約束手形を延滞賃料の支払として譲渡すべく提供したことが、金銭債務の履行として債務の本旨に従った弁済の提供があったものとは解せられない。
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和23(オ)44 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 債務者が弁済のため現金を債権者方に持参してその受領を催告すればこれを債権者の面前に提示しなくても、現実に弁済の提供をしたものとみるのが相当である。 二 債権者が予め弁済の受領を拒み、たとえ債務者が言語上の提供をしてもこれを受領しないことが明白な場合には、債務者は、言語上の提供をしなくても、履行遅滞の責を負わない。
事件番号: 昭和36(オ)43 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
土地所有者が仮設建築物を所有して土地を不法占有する者を相手方として土地明渡の調停を申立てたところ、その建物の居住者が利害関係人として期日に出頭し、なお居住者が多数あることが判明したので、事態の解決を計るため、調停外において右居住者中の有力者一名と期間を一〇年とする土地賃貸借契約を結び、一〇年後には必ず返地することを確約…