建物が部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に建物全体としてみるときは自力によつて屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることがないなど原判示の事情の如く、いまだ建物としての社会的経済的効用を失う程度に至つていないものと認められるときは、右建物は借地法にいう朽廃の程度には達していない。
建物が借地法にいう朽廃の程度に達していないと認められた事例
借地法2条,借地法17条
判旨
借地法における建物の朽廃とは、建物が社会的経済的効用を失う程度に達した状態を指す。一部に甚だしい損耗があっても、建物全体として自立し、修理によって耐久力を維持できる場合は、朽廃には当たらない。
問題の所在(論点)
旧借地法下において、建物に部分的な甚だしい損耗がある場合でも、建物全体として独立性を保ち、修理によって存続可能であれば、同法にいう建物の「朽廃」に該当するか。
規範
借地法における建物の「朽廃」とは、建物が老朽化し、建物としての社会的経済的効用を失うに至った状態をいう。判断にあたっては、建物の一部分の損耗状況のみならず、建物全体としての構造的安定性、独立して地上に存在する能力、人の出入りの安全性、及び適切な修理・維持保全によって耐久力が維持・回復可能かという観点から総合的に判断すべきである。
重要事実
昭和16年頃に建築された本件建物について、昭和40年時点の状態が争われた。建物の骨格部分(土台、柱脚部、外廻り壁・屋根裏の下地板等)や屋根瓦に相当甚だしい損耗が見られ、内部造作材も老化していた。一方で、建物全体としては自力で屋根を支えて独立して地上に存在しており、内部への人の出入りに危険を感じる状態ではなかった。また、局部的かつ応急的な修理を行うことで、建物としての耐久力は安定・維持できる状態にあった。
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
あてはめ
本件建物には土台や柱脚部等に甚だしい損耗が認められるものの、建物全体として見れば自立性を保っており、内部への出入りに危険がない。また、応急修理等の維持保全措置を講じれば耐久力の安定や増大が期待できる状態にある。そうであれば、建物の一部に著しい老化があるとしても、建物としての社会的経済的効用を完全に失ったとは評価できず、いまだ「朽廃」の程度には達していないと解される。
結論
本件建物は借地法にいう朽廃の程度には達しておらず、借地権は消滅しない。
実務上の射程
借地借家法適用前の旧法下の事案であるが、朽廃の意義に関するリーディングケースである。答案上は、単なる損耗ではなく「社会的経済的効用」の喪失が必要である旨を明示し、あてはめでは「危険性の有無」や「修繕による存続可能性」を重視して論じるべきである。なお、現行法下では朽廃による当然消滅は規定されていないが、合意更新がない場合の期間満了時における正当事由(同法6条)の判断要素として、建物の老朽化度は依然として重要な意味を持つ。
事件番号: 昭和43(オ)637 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする借地契約においては、その借地上の建物に対し通常の域をこえる大修繕をした場合には、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものと解すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)300 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
借地上の木造建物(アパート)について、二箇月間にわたり、布コンクリートの基礎にブロツクを積みあげてセメントでかため、基礎をあげて家屋の土台を据え付け、支柱の腐蝕部分を切りとつてつぎたすなどの通常の修繕の域をこえる大修繕をした場合において、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕の実態、修繕当時の老朽の度合、とくに賃貸…
事件番号: 昭和36(オ)321 / 裁判年月日: 昭和36年11月30日 / 結論: 棄却
建築以来六三年余を経た草葺平家建居宅の柱の大半は下部が腐蝕し、屋根には一部雨漏りがあり、周囲の壁も地面に接着する部分において一部くずれ落ち、家屋の傾斜は倒壊をおそれられる状態であり、近隣の人もそれをおそれて警察署に陳情し、その結果警察署の警告が発せられた等原審認定の事実関係のもとで当該家屋が既に朽廃の状況にあつたと判定…
事件番号: 昭和48(オ)411 / 裁判年月日: 昭和50年9月11日 / 結論: 棄却
借地人が、地上建物を改築するにあたり、旧建物を一時に全部取り毀さず、新建物の建築工事と並行してその進行状況に応じて順次取り毀し、新建物完成の時に全部取り毀したときでも、右旧建物の取毀しは、借地法七条にいう建物の滅失にあたる。