借地上の木造建物(アパート)について、二箇月間にわたり、布コンクリートの基礎にブロツクを積みあげてセメントでかため、基礎をあげて家屋の土台を据え付け、支柱の腐蝕部分を切りとつてつぎたすなどの通常の修繕の域をこえる大修繕をした場合において、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕の実態、修繕当時の老朽の度合、とくに賃貸人がその修繕工事の着手の前後にわたつて反対を申し入れたなど判示事実関係のもとでは、その借地契約は、おそくともその修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了したものと解するのが相当である。
借地上の建物に通常の修繕の域をこえた大修繕がされた場合に借地契約が修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものとされた事例
借地法2条1項
判旨
借地上の建物が朽廃寸前の状態において、土地所有者の反対を押し切って大規模な修繕が行われた場合、借地権は修繕がなければ建物が朽廃したであろう時期に消滅する。
問題の所在(論点)
旧借地法下において、建物が朽廃寸前の状態で、土地所有者の反対を押し切り耐用年数を大幅に延ばす大規模修繕が行われた場合、借地権の存続期間はどうなるか。
規範
建物が朽廃(建物の効用が失われ、修繕によっても回復不能な状態)した場合、借地権は当然に消滅する。もっとも、朽廃寸前の建物に対し、土地所有者の異議があるにもかかわらず、耐用年数を大幅に延長させるような通常の範囲を超えた大規模な修繕がなされた場合には、借地権の存続期間は、当該修繕がなかったならば建物が朽廃したであろう時期までと解するのが相当である。
重要事実
上告人は、昭和14年築の老朽化したアパートを、土地所有者(被上告人)による根本的修繕の中止申し入れや解約申し入れという明確な異議があったにもかかわらず、昭和33年に大規模に修繕した。修繕内容は、基礎の嵩上げ、柱の接合、外壁のラス・モルタル塗り、屋根の葺き替え等、建物の耐久年数を3年から20年以上に増大させるものであった。修繕当時、建物は朽廃の一歩手前であり、修繕がなければ昭和36年7月頃には朽廃する状態にあった。
事件番号: 昭和43(オ)637 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする借地契約においては、その借地上の建物に対し通常の域をこえる大修繕をした場合には、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものと解すべきである。
あてはめ
本件修繕は、土地をかさ上げし基礎を新造するなど、保存のための通常修繕の範囲を超え、耐用年数を3年から20年へと劇的に延長させるものである。被上告人は工事前から明確に反対の意思を表示しており、このような状況下で強行された修繕により借地期間を延長させることは、借地法が予定する建物の所有目的を逸脱する。したがって、修繕がなければ建物が居住に耐えず朽廃したであろう昭和36年7月末をもって、本件借地契約は終了したと評価すべきである。
結論
本件借地契約は、大規模修繕が行われなかった場合に建物が朽廃したであろう時期(昭和36年7月末日)に終了する。
実務上の射程
現行の借地借家法下でも、期間の定めのない借地権における建物の朽廃(消滅)の議論や、再築による期間延長の正当性の判断において、土地所有者の承諾の有無や修繕の程度を考慮する際の重要な指針となる判例である。
事件番号: 昭和42(オ)259 / 裁判年月日: 昭和42年7月18日 / 結論: 棄却
建物が部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に建物全体としてみるときは自力によつて屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることがないなど原判示の事情の如く、いまだ建物としての社会的…
事件番号: 昭和36(オ)321 / 裁判年月日: 昭和36年11月30日 / 結論: 棄却
建築以来六三年余を経た草葺平家建居宅の柱の大半は下部が腐蝕し、屋根には一部雨漏りがあり、周囲の壁も地面に接着する部分において一部くずれ落ち、家屋の傾斜は倒壊をおそれられる状態であり、近隣の人もそれをおそれて警察署に陳情し、その結果警察署の警告が発せられた等原審認定の事実関係のもとで当該家屋が既に朽廃の状況にあつたと判定…
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)1362 / 裁判年月日: 昭和42年7月20日 / 結論: 棄却
借地法第一〇条による建物買取請求権の消滅時効期間は一〇年と解すべきである。