建物所有を目的とする借地契約においては、その借地上の建物に対し通常の域をこえる大修繕をした場合には、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものと解すべきである。
建物所有を目的とする借地契約の朽廃の意義
借地法1条
判旨
借地上の建物に通常の修繕を超える大修繕が施された場合、諸般の事情に照らし、現実に朽廃していなくとも修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に借地契約が終了すると解される。公共事業に伴う移築・修繕であっても、その修繕が通常の範囲内か、あるいは構造の変更を伴う大改修かを慎重に判断し、朽廃時期を認定すべきである。
問題の所在(論点)
旧借地法における建物の「朽廃」の認定において、老朽化した建物に大規模な修繕や移築が行われた場合、契約終了時期(朽廃時期)はどのように判断されるべきか。また、公共目的による移転という事情はどのように影響するか。
規範
建物所有目的の借地契約において、通常の修繕の域を超える大修繕が施された場合、①建物の築造後の経過、②修繕前の状況、③修繕の実態(新旧材料の利用範囲等)、④修繕当時の老朽度、⑤賃貸人の修繕に対する態度、⑥その他諸般の事情(構造の異同等)を総合考慮する。その結果、信義則上、建物が現実に朽廃していなくとも、修繕前の建物が本来朽廃したであろう時期に借地契約は終了する。
重要事実
本件各家屋は、建築後30年余を経過し外観上かなり老朽化していた。国道建設に伴う敷地買収により移転を余儀なくされ、その際に移築・修繕・増改築が行われた。移築後の建物は、旧家屋と構造がかなり異なり、新旧材料の混用状況や老朽度の詳細な認定が必要な状態であった。原審は、これらの修繕が移築に伴うものであり耐用年数も経過していないとして、直ちに借地法2条1項(旧法)の「朽廃」を否定した。
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
あてはめ
本件では、旧家屋が築30年を経て非常に老朽化しており、移築に際して構造が大幅に変更された可能性がある。単に移築後の建物が現実に朽廃していないことのみを理由に契約存続を認めるべきではない。具体的には、新旧材料の使用部位、構造の異同が生じた事由、賃貸人の承諾の有無等を詳細に検討すべきである。国道建設という公共目的による移転であっても、それが「通常の修繕」の範囲内か、あるいは本来の朽廃時期を不当に延長させる「大修繕」に該当するかは別個に評価されるべきである。
結論
原審が修繕の実態や本来の朽廃時期を精査せずに、現存する建物の状態のみから契約終了を否定したのは審理不尽である。原判決を破棄し、本来の朽廃時期の存否を再検討させるため差し戻す。
実務上の射程
建物の修繕によって耐用年数が延長された場合でも、賃貸人の期待に反して借地期間が不当に延長されることを防ぐ「朽廃すべかりし時期」の理論(擬制朽廃)を確認した。答案上は、借地法(旧法)下の事案として、建物の同一性や維持管理の限界を超えた修繕がなされた場合の契約終了時期を認定する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和41(オ)300 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
借地上の木造建物(アパート)について、二箇月間にわたり、布コンクリートの基礎にブロツクを積みあげてセメントでかため、基礎をあげて家屋の土台を据え付け、支柱の腐蝕部分を切りとつてつぎたすなどの通常の修繕の域をこえる大修繕をした場合において、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕の実態、修繕当時の老朽の度合、とくに賃貸…
事件番号: 昭和42(オ)259 / 裁判年月日: 昭和42年7月18日 / 結論: 棄却
建物が部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に建物全体としてみるときは自力によつて屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることがないなど原判示の事情の如く、いまだ建物としての社会的…
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…