建築以来六三年余を経た草葺平家建居宅の柱の大半は下部が腐蝕し、屋根には一部雨漏りがあり、周囲の壁も地面に接着する部分において一部くずれ落ち、家屋の傾斜は倒壊をおそれられる状態であり、近隣の人もそれをおそれて警察署に陳情し、その結果警察署の警告が発せられた等原審認定の事実関係のもとで当該家屋が既に朽廃の状況にあつたと判定したことは是認できる。当時右家屋において結婚式や葬式が行われ数十人が危険を感ずることなく集つたことのあつた事実だけで直ちに朽廃に達していなかつたと判定しなければならないことはない。
建物が借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達したと判定された事例。
判旨
建物が建築から長年月を経過し、構造の主要部分である柱の腐蝕や傾斜、屋根や壁の破損が著しく倒壊の恐れがある場合には、建物は朽廃したものと認められる。利用実態として一時的に多人数が集まることが可能であっても、建物の物理的損耗の状態から朽廃の判断を妨げない。
問題の所在(論点)
建物が老朽化し倒壊の危険がある一方で、一時的に多人数が集まる等の利用が継続している場合において、当該建物が借地権の消滅原因となり得る「朽廃」に至ったと認められるか。
規範
建物が「朽廃」したか否かは、建物の建築後の経過年数、主要構造部(柱、屋根、壁等)の腐蝕・破損の程度、及び倒壊の危険性の有無といった物理的損耗の状態を総合的に考慮して判断する。建物の社会的・経済的効用の喪失を基礎付ける客観的な状態が認められる場合には、一時的な利用実態があっても朽廃を認めるのが相当である。
重要事実
本件建物は明治23年頃建築の草葺平家建居宅であり、昭和29年時点で築63年余が経過していた。柱の大半は下部が腐蝕し、屋根の一部に雨漏りがあり、周囲の壁も地面接着部が崩れ落ちていた。さらに西側や北側が相当に傾斜して倒壊の恐れがあり、近隣住民の陳情を受けた警察署が調査の上、所有者に警告を発する状態であった。一方で、同時期に結婚式や葬式で数十人が集まった際、利用者が特段の危険を感じなかったという事情も存在した。
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
あてはめ
まず、本件建物は築63年を超え、柱の腐蝕や建物の傾斜といった構造上の欠陥が顕著である。屋根や壁の破損も進んでおり、倒壊の恐れについて警察署が警告を発するに至っている事実は、建物が物理的に耐用年数を限界まで超えていることを示す。これに対し、結婚式等の行事で数十人が集まった際に危険を感じなかったという主観的・一時的な事情は、上述の客観的な腐蝕・傾斜の事実を覆すに足りない。したがって、本件建物は客観的に見てその効用を喪失した朽廃状態にあるといえる。
結論
本件建物は昭和29年頃において既に朽廃の状況にあったと認められる。
実務上の射程
借地法(現・借地借家法)における借地権の存続期間や消滅に関連して、「朽廃」の定義を具体的事実から示したものである。建物の物理的・構造的な損耗状況を重視し、占有者による主観的な「利用可能感」よりも客観的な危険性を優先して判断する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和42(オ)259 / 裁判年月日: 昭和42年7月18日 / 結論: 棄却
建物が部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に建物全体としてみるときは自力によつて屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることがないなど原判示の事情の如く、いまだ建物としての社会的…
事件番号: 昭和41(オ)300 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
借地上の木造建物(アパート)について、二箇月間にわたり、布コンクリートの基礎にブロツクを積みあげてセメントでかため、基礎をあげて家屋の土台を据え付け、支柱の腐蝕部分を切りとつてつぎたすなどの通常の修繕の域をこえる大修繕をした場合において、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕の実態、修繕当時の老朽の度合、とくに賃貸…
事件番号: 昭和43(オ)637 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする借地契約においては、その借地上の建物に対し通常の域をこえる大修繕をした場合には、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものと解すべきである。
事件番号: 昭和36(オ)781 / 裁判年月日: 昭和37年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法(旧法)の保護を受ける賃貸借への変更の有無は、建物の大小、形態、構造のみならず、諸般の事情を総合的に斟酌して判断されるべきである。また、解約申入れが権利濫用に当たるか否かは、認定された事実関係に基づき個別具体的に判断される。 第1 事案の概要:上告人は、ある時点を境として、本件賃貸借が借地法…