一、旧民法第七三〇条第二項の「養親カ養家ヲ去リタルトキ」とは、養親自身が婚姻または養子縁組によつてその家に入つた者である場合に、その養親が養家を去つたときの意と解すべきである。 二、養母が他から賃借した一筆の土地に相接する二棟の建物を所有し、養女夫婦とこれに同居していたが、その各一棟を養女とその夫にそれぞれ贈与し、その後間もなく死亡した等判示の事情のもとにおいては、右地主から右夫に対する土地所有権に基づく右受贈家屋の収去およびその敷地の明渡を求める請求を権利濫用にあたらないとして直ちに認容することは許されない。
一、旧民法第七三〇条第二項の「養親カ養家ヲ去リタルトキ」の意義 二、借地権の無断譲受人に対する土地明渡の請求が権利濫用にあたらないとする判断に違法があるとされた事例
旧民法(昭和22年法律第222号による改正前のもの)730条2項,民法1条,民法612条
判旨
賃借権の無断譲渡・転貸がなされた場合であっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除権は発生しない。
問題の所在(論点)
民法612条2項の解除権発生の要件として、賃借人による「背信的行為」が必要か、また本件の事情がそれに該当するか。
規範
民法612条2項は、賃貸借が当事者間の個人的信頼関係を基礎とするものであることに鑑み、賃貸人の承諾のない賃借権の譲渡・転貸があった場合に解除権を認めている。しかし、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、同条項による解除権の行使は許されない。
重要事実
賃借人Dは、生前、敷地上の建物(2棟で事実上一棟)を養子A1およびその夫A2にそれぞれ贈与し、賃借権を譲渡または転貸した。A1・A2夫妻は昭和20年以来Dと同居しており、贈与は財産分けとして行われたもので、使用状況に格別の変動はなかった。その後Dが死亡し、A1がDを相続した。賃貸人の承継人である被上告人は、DからA1・A2への譲渡等について承諾がないことを理由に賃貸借契約の解除および建物の収去・土地明渡しを求めた。
事件番号: 昭和42(オ)1362 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 棄却
賃借人たる甲女が同居の夫乙男に借地の一部を無断転貸した行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があつて、右無断転貸を理由とする解除が効力を生じないとされた場合において、もし甲乙間の生活関係に離婚等の変動を生じ、これにより前記特段の事情が解消されたときは、また、その時点において別途判断すれば足り、一般にこ…
あてはめ
本件における賃借権の譲渡等は、Dが同居する養女夫婦(A1・A2)に対して財産分けとして行ったものである。譲渡後も土地建物の使用実態に大きな変化はなく、賃貸人との信頼関係を破壊するような態様ではない。このような親族間での財産譲渡や相続が絡む経緯に照らせば、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるといえる。したがって、無断譲渡・転貸を理由とする解除は認められない。
結論
無断譲渡・転貸の事実があっても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるため、民法612条2項に基づく解除は認められず、土地明渡し請求は認容できない。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理(背信行為論)のリーディングケースである。答案上は、612条2項の文言通りの適用を制限する理論として、同条の趣旨(信頼関係の重視)から導く形で論証する。親族間の譲渡や事実上の承継、使用実態の不変などの事実を拾い、背信性の有無を実質的に検討する際の判断枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和41(オ)1073 / 裁判年月日: 昭和42年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の転貸をした場合であっても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人Bは、賃貸人である上告人Aの承諾を得ることなく、本件土地の一部を訴外Dに転貸した。この転…
事件番号: 昭和43(オ)1091 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
夫は宅地を賃貸し妻はその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦の離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した場合において、賃貸人は右同居生活および妻の建物所有を知つて夫に宅地を賃貸したものである等の判示事情があるときは、借地権の譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する背信行為とは認められない特別の事情があるというべ…
事件番号: 昭和41(オ)100 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
甲の賃借地が賃借当時から乙会社所有の建物の敷地として利用されている場合でも、乙会社は甲のいわゆる個人会社である等判示の諸事情があるときは、賃貸人に対する背信行為に当たらない特別の事由があり賃貸人が民法第六一二条により賃貸借契約を解除することは許されない。