賃借地の一部転貸が(その賃借人の一家がいわゆる草分けとして約八〇年にわたり当該借地を使用して来た事実をも考慮して)賃貸人に対する背信行為と認められない特別の事情があるとした原審の判断を相当とした事例
判旨
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の転貸をした場合であっても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物を転貸した場合(民法612条1項違反)、賃貸人は直ちに同条2項に基づき契約を解除することができるか。無断転貸があっても解除が制限される基準が問題となる。
規範
民法612条2項は、賃借人が無断で賃借権の譲渡又は転貸をした場合に賃貸人が契約を解除できる旨を規定している。しかし、賃貸借が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることに鑑み、無断転貸がなされた場合であっても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する「背信行為と認めるに足りない特段の事情」があるときは、同条による解除権は発生しないと解すべきである。
重要事実
賃借人Bは、賃貸人である上告人Aの承諾を得ることなく、本件土地の一部を訴外Dに転貸した。この転貸は、DがBから所有物置の一部を借り受けていた経緯から始まり、昭和30年頃に土地の転貸に至ったものである。昭和35年には賃料の授受も行われていた。賃貸人Aは、この無断転貸を理由に賃貸借契約の解除を主張したが、BとDとの関係や転貸に至る経緯、賃料の差額等の諸事情が考慮された。
あてはめ
本件では、BによるDへの転貸に至る経緯として、元々DがBから物置の一部を借りていたという密接な関係がある。また、授受された金銭の趣旨や転貸料と元の賃料との差等を含め、原審が認定した諸事実を総合的に考慮すれば、賃貸人Aとの間の信頼関係を破壊するような背信行為があったとは認められない。したがって、解除権の行使を認めるべきではない「特段の事情」が存在するといえる。
事件番号: 昭和43(オ)1091 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
夫は宅地を賃貸し妻はその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦の離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した場合において、賃貸人は右同居生活および妻の建物所有を知つて夫に宅地を賃貸したものである等の判示事情があるときは、借地権の譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する背信行為とは認められない特別の事情があるというべ…
結論
本件無断転貸は、賃貸人に対する背信行為と認められない特段の事情があるため、賃貸人による解除は認められない。上告棄却。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理を無断転貸の事案に適用した事例である。司法試験においては、無断譲渡・転貸があった場合に、形式的に612条2項を適用するのではなく、必ず「背信行為と認めるに足りない特段の事情」の有無を検討する枠組みとして活用する。あてはめでは、当事者間の人間関係、転貸の面積、利用目的、対価の有無・多寡などの具体的事実を拾い、信頼関係の破壊の有無を論評する必要がある。
事件番号: 昭和32(オ)411 / 裁判年月日: 昭和33年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が無断で賃借権を譲渡した場合であっても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項による解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)が賃貸人の承諾を得ることなく賃借権を第三者に譲渡した。これに対し、賃貸人は民法612条2項に…
事件番号: 昭和41(オ)100 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
甲の賃借地が賃借当時から乙会社所有の建物の敷地として利用されている場合でも、乙会社は甲のいわゆる個人会社である等判示の諸事情があるときは、賃貸人に対する背信行為に当たらない特別の事由があり賃貸人が民法第六一二条により賃貸借契約を解除することは許されない。
事件番号: 昭和40(オ)163 / 裁判年月日: 昭和41年1月27日 / 結論: 棄却
賃借地の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張・立証すべきである。
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)