公知の装置の構造につき一定の数値的限定を与えるものが特許に値する発明と認められるためには、それによつて、その装置から当業者の技術水準によつては予想できないような高度の効果を発揮させる構想でなければならない。
公知の装置の構造につき一定の数値的限定を与える発明の特許に要する進歩性
旧特許法(大正10年法律第96号)1条
判旨
公知の装置に数値的限定を付した発明が特許を受けるためには、その数値限定が当業者の通常の技術手段では予想できない顕著な作用効果を奏するものでなければならない。単なる反復実験により到達可能な数値設定は、創作性のある技術思想とは認められず、進歩性が否定される。
問題の所在(論点)
公知の装置の構成要素を数値により限定した「数値限定発明」において、旧特許法1条(現行法29条2項参照)にいう発明の進歩性が認められるための要件、特に「作用効果の顕著性」の判断基準が問題となる。
規範
公知の装置の構造につき一定の数値的限定を与える発明について、創作性ある技術思想として特許を受けるためには、その限定によって、当業者の技術水準からは予想できないような高度の効果(異質な効果または同質であるが著しく顕著な効果)を発揮させる構想であることを要する。当業者が設計上当然に解決すべき課題に対し、実験の反復により適切な数値を見出すことは、別段の構想に基づく基本構造の変更を伴わない限り、容易に想到し得るものと解する。
重要事実
本願発明は、生産物をガスで処理する公知の装置において、被処理物とガス吹出孔口との距離、およびガス排出通路の広さについて、一定の数値的限定を設けたものである。上告人は、この限定が組織的・系統的研究の結果であり、処理能率を良好にするものであると主張したが、原審は、当該数値に理論的根拠がなく、通常予想し得る範囲を超えた格別の作用効果も認められないとして、当業者が容易に想到できるものと判断した。
事件番号: 昭和26(オ)745 / 裁判年月日: 昭和28年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特許審決取消訴訟において、審判過程で主張されなかった事実や審決の基礎とされなかった事実を、訴訟段階で新たに主張し、裁判所がこれを判決の基礎として採用することは違法ではない。 第1 事案の概要:上告人(発明者)は、自らが発明した製粉機が当時の特許法1条にいう「新規ナル工業的発明」に該当すると主張して…
あてはめ
本件の数値限定は、ガス噴射速度の維持と排出の円滑化という、装置設計に際して当業者が当然に解決すべき課題に向けられたものである。このような目的に基づき適切な数値を見出すことは、当業者の技術的常識をもってする実験の反復により実現可能な範囲内であり、装置の基本構造を変更するような特段の技術思想を要するものとはいえない。また、本願発明の効果は、当業者が通常の技術手段によって実現可能と予想できる程度を超えたもの(顕著な効果)とは認められず、単に目的を達成したことや実験に困難を伴ったことのみでは、進歩性は肯定されない。
結論
本願発明は、当業者が容易に想到し得るものであり、特許を受けることができない。上告棄却。
実務上の射程
数値限定発明の進歩性を論じる際のリーディングケースである。答案では、①課題解決のための数値化が当業者の通常の創作能力の範囲内か(設計事項か)、②奏される効果が公知技術から予測可能な範囲を超えた顕著なものか、という二段構えの検討を行う際の規範として用いる。
事件番号: 昭和32(オ)987 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】発明の新規性判断において、公知・慣用の各部分装置を組み合わせた発明は、それらの単なる寄せ集めに過ぎず、総合により独自の効果を生じない限り、新規性を有しない。また、発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載のみならず、明細書及び図面の全体の記載を総合して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は…
事件番号: 昭和32(オ)986 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特許の分割出願とその拒絶査定を巡る訴訟において、原願と分割願は別個の事件であり、同一の審査官や審判官が双方に関与したとしても、直ちに除斥・忌避事由等の手続的違法は認められない。また、引用発明が技術的に実施可能であると判断される限り、新規性は否定され、当該拒絶審決は適法となる。 第1 事案の概要:上…
事件番号: 昭和32(オ)985 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】分割出願の適法性は原出願の拒絶査定の適否に左右されず、公知の技術的手段を単に置換したに過ぎない発明は、特段の新規な発明思想を含まないため新規性が否定される。 第1 事案の概要:上告人は、原出願を6個に分割したうちの1つとして、家庭用編物機の機体を台板等に起伏自在に取り付ける発明につき特許出願を行っ…
事件番号: 昭和32(オ)984 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】分割出願の拒絶査定の適法性は、原出願の拒絶査定の適否とは別個に判断される。引用発明と根本的な技術思想が同一であれば、単なる材質の変更による耐久性の向上などは新規性を基礎付けず、引用例の一部が実施可能であれば、装置全体としての実施可能性を審理せずとも新規性を否定できる。 第1 事案の概要:上告人は原…