民訴法第六四九条第一項、第六五六条、第六五七条の規定は、差押債権者、優先権者および公益を保護する趣旨のものであり、同法条の遵守の結果債務者に生ずる利益は事実上の利益にすぎないから、債務者は、右法条の不遵守を理由に損害賠償の請求をすることはできない。
いわゆる剰余の見込なき場合の競売取消等の規定に違反してされた競売につき債務者からする損害賠償請求が否定された事例
民訴法649条1項,民訴法656条,民訴法657条,国家賠償法1条1項
判旨
無剰余競売の禁止規定(旧民訴法649条等)は、差押債権者、優先権者及び公益を保護する趣旨であり、債務者が受ける利益は事実上の利益にすぎないため、同規定違反を理由とする債務者からの国家賠償請求は認められない。
問題の所在(論点)
無剰余競売の禁止規定(旧民訴法649条等、現行民事執行法63条等参照)違反が、債務者に対する関係で国家賠償法1条1項にいう「違法」な行為といえるか、すなわち同規定が債務者の法律上の利益を保護するものかが問題となる。
規範
無剰余競売を禁ずる規定の趣旨は、①差押債権者が弁済を受けられない無益な執行の回避、②優先権者の意に反する投資回収の強要防止、③執行機関の無意味な手続からの解放にあり、差押債権者、優先権者及び公益を保護するものである。したがって、債務者が当該不動産の所有権を保持したり、負担を免れたりする利益は、同条を適用した結果生じる「事実上の利益」にすぎず、債務者がその違反を主張し得る「法律上の利益」には当たらない。
重要事実
不動産競売手続において、差押債権者の債権に先立つ負担及び執行費用を弁済しても剰余が生じる見込みがない(無剰余)にもかかわらず、競売が実施された。これに対し、債務者(不動産所有者)が、執行手続に旧民訴法649条等の無剰余競売禁止規定に違反する違法があるとして、国に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
あてはめ
本件における無剰余競売の禁止規定は、差押債権者や優先権者の保護を直接の目的としており、債務者の利益保護を目的としたものではない。債務者が競売の中止によって所有権を維持できるとしても、それは反射的な効果としての「事実上の利益」にすぎない。ゆえに、執行機関が同規定に違反して競売を続行したとしても、債務者との関係において職務上の法的義務に違反したとはいえず、違法性は認められない。
結論
本件強制執行は債務者に対する関係で違法とはいえず、債務者による国家賠償請求は認められない。上告棄却。
実務上の射程
無剰余競売禁止の「保護法益」の範囲を確定させた重要判例である。答案上は、国家賠償法1条1項の「違法」性の判断において、根拠規範が保護する利益の範囲(反射的利益の法理)を論ずる際の素材として活用できる。現行の民事執行法63条の解釈においても同様の理が妥当する。
事件番号: 昭和43(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和48年6月7日 / 結論: 棄却
不法行為による損害賠償についても、民法四一六条の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。