判旨
不法行為に基づく損害賠償請求において、目的物の処分により競売が不能となったとしても、優先債権額が目的物の価値を上回る場合には、債権者に現実の損害が生じたとはいえない。
問題の所在(論点)
目的物を不当に処分し、債権者による強制執行を不能にした行為について、優先債権の存在により債権者が配当を受けられる見込みがなかった場合、不法行為上の「損害」が認められるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が認められるためには、加害行為と相当因果関係のある現実の損害が発生していることを要する。債権者が目的物の競売による弁済を妨げられたと主張する場合、当該競売手続において、優先的に配当を受けるべき債権額が目的物の換価価値を超過しており、差引受領額が発生する見込みがない特段の事情があるときは、当該妨害行為によって債権者に損害が生じたとは認められない。
重要事実
上告人は、被上告人が自動車を無断で移動・処分したことにより、当該自動車の競売を通じた自己の債権の回収(弁済の実現)を妨げられたとして、自動車の時価相当額30万円の損害賠償を請求した。しかし、当該自動車の競売事件においては、上告人の債権に優先する滞納税金約40余万円の交付請求がなされていた。
あてはめ
本件では、妨害されたとされる自動車の時価は30万円である。これに対し、上告人の債権に優先して弁済を受けるべき滞納税金の額は40余万円に達しており、自動車の価値を上回っている。したがって、仮に被上告人による処分の妨害がなく競売が実施されていたとしても、上告人はその売得金から弁済を受けることは不可能であった。他に特段の事情も認められない以上、上告人は本件処分によって何ら現実の損害を被ったとはいえない。
結論
上告人に損害が発生していないため、不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
損害の発生という要件を実質的に判断する際の基準となる。執行妨害を理由とする損害賠償請求において、優先債権の存在により『配当の見込みがない(いわゆる無剰余)』場合には損害を否定する構成を採る。答案上は、加害行為の違法性のみならず、相当因果関係のある損害の存否という場面で、優先債権額と時価を比較して論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)700 / 裁判年月日: 昭和43年7月9日 / 結論: 棄却
民訴法第六四九条第一項、第六五六条、第六五七条の規定は、差押債権者、優先権者および公益を保護する趣旨のものであり、同法条の遵守の結果債務者に生ずる利益は事実上の利益にすぎないから、債務者は、右法条の不遵守を理由に損害賠償の請求をすることはできない。