登記簿上の所有者でもなく、もしくは真実の所有者でもない第三者を被買収者とした農地買収処分ならびに真実の所有者が登記簿上に記載されているのに第三者を被買収者とした農地買収処分は、いずれも、それだけで当然に無効というわけではない。
農地買収処分を無効とした判断に違法があるとした事例
自作農創設特別措置法3条,民法177条
判旨
農地買収処分において被買収者を誤ったとしても直ちに無効とはならず、処分の過程、占有・耕作の状態、真実の所有者との関係等の諸事情を総合考慮して重大かつ明白な瑕疵の有無を判断すべきである。
問題の所在(論点)
行政処分における被買収者の誤認という瑕疵が、当然無効事由としての「重大かつ明白な瑕疵」にあたるか否かの判断枠組みが問題となる。
規範
行政処分に瑕疵がある場合にそれが当然無効となるためには、瑕疵が重大かつ明白であることを要する。所有者以外の第三者を被買収者としてした農地買収処分について、重大かつ明白な瑕疵があるか否かは、登記簿の記載のみならず、①当該第三者の名義で処分がなされた過程、②目的農地の占有・耕作の状態および時期、③被買収者と真実の所有者(または登記名義人)との関係、④その他当該農地に関する一切の事情を総合的に斟酌して判断すべきである。
重要事実
政府が農地買収処分を行う際、土地(イ)については登記名義人でも真実の所有者でもない第三者Eを所有者と誤認し、土地(ロ)については真実の所有者Dが登記名義人であるにもかかわらず、これを無視して第三者Eを所有者と誤認して買収処分を行った。原審は、このような被買収者の誤認は重大かつ明白な瑕疵にあたり、処分は当然無効であると判断した。
事件番号: 昭和38(オ)533 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。
あてはめ
原審は、単に登記名義人や真実の所有者と異なる者が被買収者とされているという事実のみをもって、直ちに重大かつ明白な瑕疵にあたると判断している。しかし、農地買収処分の効力を判断するには、単なる形式的な誤認の有無だけでなく、なぜ第三者Eが被買収者として扱われるに至ったのかという経緯や、当時の占有・耕作実態、当事者間の関係性といった具体的な事情を総合的に考慮しなければならない。これらの具体的諸点について審理を尽くさずに無効と断じた原審の判断は、法令の解釈を誤り審理不尽の違法がある。
結論
被買収者の誤認が直ちに重大かつ明白な瑕疵にあたるとした原判決を破棄し、具体的な事情を総合考慮させるため本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
行政処分の無効判断における「重大明白説」の具体的適用例として機能する。特に、処分の相手方の誤認という重大な瑕疵であっても、形式的な認定にとどまらず、処分の外形的・客観的な事情を総合考慮して「明白性」を慎重に判断すべきとする実務上の指針を示すものである。
事件番号: 昭和33(オ)91 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消事由にすぎない瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が処分を当然無効ならしめるほどの重大かつ明白なものでない限り、当該処分は当然には無効とならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収処分に以下の無効原因があると主張した。(1)県係員の虚偽指示に基づく買収計画、(2)異議却下時の農地委…
事件番号: 昭和41(行ツ)41 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 破棄差戻
耕地整理の施行により大略一反歩ずつに整然と区画されて後、都市計画法による都市計画区域に編入された土地を対象とする農地買収処分の無効確認訴訟において、旧所有者である原告から、右土地が大都市近郊の住宅地として開発され、戦前すでに風致地区に指定された旨の主張があり、また判示のように、右土地の耕作が必ずしも正当な権原に基づくも…
事件番号: 昭和43(行ツ)53 / 裁判年月日: 昭和47年2月24日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人と真実の所有者とが異なる農地につき、登記簿上の所有名義人甲あての買収令書を、その家督相続人乙に交付して買収処分がなされた場合において、甲がかつて右農地の真の所有者であつたことがない場合であつても、甲は、真実の所有者丙の後見人であつたところ、丙のために右農地所有権を取得した際にこれを自己名義にしたもの…
事件番号: 昭和32(オ)883 / 裁判年月日: 昭和33年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効とされるためには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要する。事実に反する無理な認定により法律上の要件を欠くことが明白な状況下で強行された農地買収処分は、重大かつ明白な瑕疵があり当然無効である。 第1 事案の概要:被上告人はa村に居住し、そこを生活の本拠としていることは村民周知の明…