一、農地の受贈者に農地所有権移転に必要な知事の許可を妨げる事由がある場合であつても、右受贈者から贈与者に対して、知事に対する許可申請手続および右許可を条件とする所有権移転登記手続を求める訴えの利益は失われない。 二、農地の受贈者から贈与者に対し、時効期間内に、農地所有権移転登記手続の請求が提訴された場合において、その後、時効期間経過後に知事に対する許可申請手続の請求が追加されたときは、これにより右許可申請の請求権の消滅時効は中断される。 (原審大阪高裁昭和四〇年(ネ)第八五〇号昭和四〇・一二・二一判決、下級民集一六巻一二号一七八七頁参照。)
一、農地の受贈者に農地法第三条第二項の不許可事由のある場合と受贈者より贈与者に対して所有権移転登記手続等を求める訴えの利益の有無 二、時効期間内に農地所有権移転登記手続の請求が提訴され時効期間経過後に知事に対する許可申請手続の請求が追加されたときと許可申請請求権の消滅時効の中断の成否
農地法3条,民法149条,民法153条,民法167条,民訴法225条,民訴法232条,民訴法235条
判旨
農地の譲渡に伴う許可申請手続請求権について、所有権移転登記請求の訴え提起は、これに接続して請求の追加的変更がなされた場合には、消滅時効を中断させる「催告」としての効力を有する。また、農地法3条2項の不許可事由に該当する蓋然性が高くても、許可申請手続等の請求に関する訴えの利益は失われない。
問題の所在(論点)
1.農地の所有権移転登記請求の提訴に、許可申請手続請求権の消滅時効を中断させる「催告」としての効力が認められるか。 2.農地法上の不許可事由に該当する明白な事情がある場合、許可申請手続等の請求について訴えの利益が認められるか。
規範
1.農地法3条の許可を条件とする所有権移転登記請求は、当然に知事への許可申請手続を前提とするため、当該登記請求の提訴は、許可申請手続を求める「催告」の効力を有する。この催告は提訴中継続し、これに接続して許可申請手続請求の訴えが追加された場合、民法153条(旧法)の6か月の期間は提訴継続中進行せず、時効は確定的に中断する。 2.農地法3条2項の不許可事由の有無は、知事が許可・不許可を決定する段階で充足されていれば足りる。したがって、裁判所が事前に不許可事由の存否を判定して訴えの利益を否定することは許されない。
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。
重要事実
昭和29年2月21日、被上告人(譲受人)は上告人(譲渡人)から農地を贈与された。被上告人は昭和39年2月21日、上告人に対し所有権移転登記請求の訴えを提起し、昭和40年1月21日に知事に対する許可申請手続の請求を追加した。上告人は、贈与契約から10年以上経過しており、許可申請手続請求権は時効消滅していること、また被上告人が農地法3条2項5号の面積要件を満たさないことが明白であり訴えの利益を欠くことを主張した。
あてはめ
1.被上告人が最初に行った移転登記請求は、農地法上の許可による所有権移転を前提とするため、許可申請手続の催告が含まれる。この催告は訴訟行為によるものであるから、提訴から請求の追加に至るまで黙示的に継続して存在し、民法153条の6か月の期間は催告(提訴)が終了するまで進行しない。よって、これに接続してなされた請求の追加により時効は確定的に中断されたといえる。 2.不許可事由の有無は本来知事が判断すべき事項であり、特に面積要件等は許可決定時に充足されていれば足りる。裁判所が事前の段階で要件充足性を判定して門前払いすることは失当であり、現時点で要件を欠いていても訴えの利益は失われない。
結論
許可申請手続請求権の時効中断を認め、また訴えの利益も肯定して、上告を棄却した。
実務上の射程
農地売買における協力義務(許可申請・登記)を訴求する際、時効完成間際であっても登記請求を先行させ、後に許可申請請求を追加することで時効を回避できる実務上の指針となる。また、行政処分の要件を裁判所が先取りして判断することを抑制する「行政の第一次的判断権」を尊重する文脈でも参照される。
事件番号: 昭和41(オ)1234 / 裁判年月日: 昭和44年12月19日 / 結論: 棄却
不動産の買主がその売主に対してなしたいわゆる処分禁止の仮処分がある場合に、右不動産の他の買主が同一不動産について第二次の処分禁止の仮処分をすることは妨げられないが、第一次仮処分の債権者が、被保全権利の実現として、右売買契約に基づく所有権移転登記を経由したときは、第二次仮処分の債権者は、自己の仮処分の効力を主張して右所有…
事件番号: 昭和50(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和51年5月25日 / 結論: 棄却
家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権…
事件番号: 昭和31(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年8月26日 / 結論: 棄却
一 後見人の職務執行停止の仮処分命令において、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずる。 二 甲所有の不動産を、その後見人乙が代理して丙に譲渡し、乙の職務執行停止の仮処分がなされた後乙は丙のために移転登記をなし、ついで丙は同不動産を丁に譲渡し移転登記をした場合に、甲は丁に対して…
事件番号: 昭和39(オ)1397 / 裁判年月日: 昭和41年2月24日 / 結論: 棄却
知事の許可なくしてなされた農地の売買契約においても、特段の事情のないかぎり、売主は知事に対し所定の許可申請手続をなすべき義務を負い、また、もしその許可があつたときは、買主のため所有権移転登記手続をなすべき義務を負担するに至るものと解するのが相当である。