知事の許可なくしてなされた農地の売買契約においても、特段の事情のないかぎり、売主は知事に対し所定の許可申請手続をなすべき義務を負い、また、もしその許可があつたときは、買主のため所有権移転登記手続をなすべき義務を負担するに至るものと解するのが相当である。
知事の許可なくしてなされた農地売買契約の効力
農地法3条
判旨
農地の売買契約は、知事等の許可がない限り所有権移転の効力は生じないが、契約自体は有効であり、売主は許可申請手続義務および許可を条件とする登記手続義務を負う。また、許可を条件とする登記請求は、将来の給付の訴えとして許容される。
問題の所在(論点)
1. 農地の売買契約において、知事の許可がない段階での契約の効力および売主の義務の内容はどうなるか。 2. 農地法の許可を条件とする所有権移転登記請求は、将来の給付の訴えとして適法か。
規範
農地の売買契約は、農地法上の許可がない限り所有権移転の効力は生じない。しかし、契約自体が当然に無効となるわけではなく、特段の事情のない限り、売主は許可申請手続をなすべき義務を負う。また、当該許可があった場合には、買主に対し所有権移転登記手続をなすべき債務を負担する。この許可を条件とする登記請求権は、条件成就時に直ちに履行を求める必要性があるため、将来の給付の訴え(民訴法135条、旧226条)として提起することが認められる。
重要事実
亡Dの代理人A(上告人)と被上告人との間で、本件不動産(農地)の売買契約が締結された。しかし、当該農地の売買について知事の許可が得られていなかったため、被上告人は上告人らに対し、知事に対する許可申請手続とともに、許可があったことを条件とする所有権移転登記手続を求めて提訴した。上告人側は、許可がない以上契約は無効であり、将来の給付の訴えとしても不適法であると主張して争った。
事件番号: 昭和38(オ)1272 / 裁判年月日: 昭和39年9月8日 / 結論: 棄却
農地の買主は、その必要があるかぎり、売主に対し、知事の許可を条件として農地所有権移転登記手続請求をすることができる。
あてはめ
農地の売買において、知事の許可は所有権移転の効力発生要件であるが、契約当事者は互いに協力してその効力を発生させるべき信義則上の義務を負う。本件において特段の事情は認められず、売主は許可申請義務を負う。また、登記請求については、許可という条件が成就した際に遅滞なく登記手続がなされる必要があり、あらかじめ請求しておく必要性が認められる。したがって、本件の訴えは将来の給付の訴えとしての要件を満たす。
結論
農地の売主は許可申請手続義務を負い、許可を条件とする登記請求は将来の給付の訴えとして適法である。上告棄却。
実務上の射程
農地法3条等の許可を停止条件とする所有権移転登記請求訴訟の規範的根拠となる判例である。答案上は、物権変動の効力は生じないが「債権的義務」は発生するという構成をとる際に引用する。また、将来の給付の訴えにおける「あらかじめ請求する必要」の具体例(条件付債権)としても重要である。
事件番号: 昭和39(オ)1226 / 裁判年月日: 昭和41年6月30日 / 結論: その他
現況宅地である土地について農地法第三条の知事の許可を条件として所有権移転登記を請求する訴訟が提起された場合には、裁判所は、宅地としての売買による所有権移転登記の請求についてまで前記条件を付する趣旨か否かを釈明して判断するのが相当である。
事件番号: 昭和30(オ)657 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の贈与について都道府県知事の許可が得られていない場合であっても、当該許可を停止条件とする贈与契約は有効に成立する。 第1 事案の概要:上告人は、本件農地を贈与する旨の契約を締結したが、都道府県知事の許可が得られていないことを理由に、贈与契約は無効であり、許可申請手続を履行する義務もないと主張し…
事件番号: 昭和37(オ)291 / 裁判年月日: 昭和38年9月3日 / 結論: 棄却
甲乙間の農地訴有権移転の許可申請書に添付されている農地売買契約書表示の契約年月日において甲乙間に直接売買がなされた事実はなく、真実は、前示年月日以前に甲丙間に売買契約が成立していたところ、丙の右契約にもとづく権利を乙が譲り受け、甲乙間に当該農地の所有権移転がなされるに至つた場合にあつては、申請書添付書類に右のような真実…
事件番号: 昭和36(オ)360 / 裁判年月日: 昭和38年6月25日 / 結論: 棄却
控訴人が「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。被控訴人の附帯控訴を棄却する。」旨の裁判を求め、第一審で棄却された反訴請求には何ら言及していない場合には、右反訴請求については、不服申立の範囲外であるとして控訴審の判断が示されなくても違法でない。