不動産の買主がその売主に対してなしたいわゆる処分禁止の仮処分がある場合に、右不動産の他の買主が同一不動産について第二次の処分禁止の仮処分をすることは妨げられないが、第一次仮処分の債権者が、被保全権利の実現として、右売買契約に基づく所有権移転登記を経由したときは、第二次仮処分の債権者は、自己の仮処分の効力を主張して右所有権の取得を否定することはできない。
競合する処分禁止の仮処分の優劣
民訴法755条,民訴法758条,民法177条
判旨
不動産について二重に処分禁止の仮処分がなされた場合、第一の仮処分債権者が被保全権利に基づき所有権移転登記を完了したときは、第二の仮処分債権者は自己の仮処分の効力を主張して第一の債権者の所有権取得を否定することはできない。
問題の所在(論点)
同一不動産につき処分禁止の仮処分が競合した場合において、後行の仮処分債権者は、先行する仮処分債権者が被保全権利に基づいて取得した登記の効力を、自己の仮処分の優先権を理由に否定できるか(仮処分の優劣と権利実現の限界)。
規範
処分禁止の仮処分は被保全権利の確実な実現を目的とするものである。同一不動産について先行する第一の仮処分がある場合、後行の第二の仮処分をすることは内容的に抵触しないため許容される。しかし、第一の仮処分債権者がその被保全権利の実現として所有権移転登記を経由した場合には、第二の仮処分債権者は、自己の仮処分の効力を主張して、すでに存在する第一の仮処分債権者が行う権利実現の結果を阻害することはできない。
重要事実
被上告人(第一次仮処分債権者)は、昭和32年にD社から建物を買い受け、昭和36年8月30日に処分禁止の仮処分登記を経由した。一方、上告人(第二次仮処分債権者)は、昭和36年6月にD社から同一建物を買い受け、昭和38年7月2日に処分禁止の仮処分登記、同月20日に所有権移転の仮登記、昭和40年5月29日に本登記を経由した。被上告人は、上告人に対し建物の明け渡し等を求めて提訴した。
事件番号: 昭和36(オ)1219 / 裁判年月日: 昭和37年12月18日 / 結論: 棄却
権利取得が仮処分登記前であつても、権利取得登記が仮処分登記後になされたときは、権利取得者は、右権利取得を以て仮処分債権者に対抗し得ない。
あてはめ
本件では、被上告人が昭和36年8月に得た仮処分は、上告人が昭和38年7月に得た仮処分よりも先行している(第一次仮処分)。被上告人の所有権取得の原因である売買契約に基づく移転登記請求が認められる以上、第一の仮処分債権者である被上告人がその権利を実現することは、仮処分の目的に照らし正当化される。これに対し、後行の仮処分債権者である上告人は、自己の仮処分の執行により先行する被上告人の権利実現を妨げることはできず、被上告人による所有権取得を否定する法的根拠を持たない。したがって、登記の前後に関わらず第一次仮処分債権者の権利取得が優先されるといえる。
結論
上告人は、自己の仮処分の効力を主張して被上告人の所有権取得を否定することはできず、被上告人の所有権移転登記完了を条件として建物を明け渡す義務を負う。
実務上の射程
二重の処分禁止仮処分が競合した場合、各仮処分は独立して効力を有するが、最終的な満足(本案勝訴に伴う登記)においては、登記された時期が先行する仮処分の債権者が優先されるという「先着順」の原理を明示したもの。民事保全法成立前の判例であるが、現行法下でも処分禁止仮処分の効力関係を解釈する際の基礎となる。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和31(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年8月26日 / 結論: 棄却
一 後見人の職務執行停止の仮処分命令において、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずる。 二 甲所有の不動産を、その後見人乙が代理して丙に譲渡し、乙の職務執行停止の仮処分がなされた後乙は丙のために移転登記をなし、ついで丙は同不動産を丁に譲渡し移転登記をした場合に、甲は丁に対して…
事件番号: 昭和38(オ)1319 / 裁判年月日: 昭和41年6月2日 / 結論: 棄却
一 不動産買受人甲が売渡人乙に対し所有権移転登記手続履践の請求訴訟を起こし、甲勝訴の判決が確定した場合において、乙から同一不動産の二重譲渡を受けた丙が、右訴の事実審の口頭弁論終結後にその所有権移転登記を経たとしても、丙は、前示確定判決について、民訴法第二〇一条第一項の承継人にあたらない。 二 登記義務者の登記申請意思の…
事件番号: 昭和41(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和44年2月27日 / 結論: 棄却
不動産の譲受人を債権者とし譲渡人を債務者として右不動産について処分禁止の仮処分登記が経由され、その後第三者に対する所有権移転登記が経由された場合において、仮処分債権者たる譲受人より譲渡人に対する本案訴訟としての所有権移転登記手続請求の訴と右第三者に対する所有権取得登記の抹消登記手続請求の訴とが併合して審理され、仮処分債…