一 後見人の職務執行停止の仮処分命令において、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずる。 二 甲所有の不動産を、その後見人乙が代理して丙に譲渡し、乙の職務執行停止の仮処分がなされた後乙は丙のために移転登記をなし、ついで丙は同不動産を丁に譲渡し移転登記をした場合に、甲は丁に対して自己に移転登記を請求する権利はない。
一 職務執行停止仮処分の効力発生の時期 二 移転登記請求権がないとされた事例
民訴法760条,民法177条,不動産登記法35条
判旨
後見人の職務執行停止の仮処分命令は、命令正本が当該後見人に送達された時に効力を生ずる。職務執行停止前に締結された売買契約に基づき、停止後に後見人が行った登記手続は権限外で無効であるが、実体的な権利関係と合致する限り、当該登記の抹消は請求できない。
問題の所在(論点)
職務執行停止の仮処分がなされた後、停止前に締結された売買契約に基づき後見人が行った登記申請の効力、および実体関係に合致する登記の抹消請求の可否が問題となる。
規範
1. 職務執行停止の仮処分命令の効力は、代行者が選任された場合であっても、命令正本が債務者(後見人)に送達された時に発生する。2. 職務執行停止後の後見人による登記申請は、登記手続上の要件を欠く無効なものである。3. もっとも、物権変動の原因となる実体行為が停止前に適法になされている場合、後の登記が実体関係に符合する限り、その効力を否定することはできない。
重要事実
上告人(本人)の後見人Dは、親族会の決議に基づき、昭和18年2月25日に本件家屋をEへ売却した。翌26日、Dに対し後見人の職務執行停止の仮処分命令が告知(送達)された。しかしDは、停止後の27日に本件売買に基づく所有権移転登記手続を完了させた。その後、Eの相続人Fから贈与を受けた被上告人に対し、上告人が所有権移転登記の無効を主張して訴えを提起した。
事件番号: 昭和33(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和35年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買の売主が所有権移転登記手続の代理権を授与した後、受任者が売主の死亡後に代理人として登記を申請した場合、その登記手続は有効である。 第1 事案の概要:上告人の被相続人Dは、本件不動産を被上告人に売却し、その所有権移転登記手続の代理権を姉であるEに授与した。その後、Dが死亡したが、受任者Eは…
あてはめ
Dによる本件家屋の売却は、仮処分命令が送達される前の25日になされており、有効な代理行為である。この時点で上告人は所有権を喪失し、Eに対して登記移転義務を負っていた。26日の送達によりDの職務執行は停止したため、27日の登記申請は権限のない者によるもので登記法上の要件を欠く。しかし、当該登記は、既に有効に成立した売買契約という実体的な権利関係と符合している。したがって、上告人に本件家屋の所有権は認められず、登記の抹消を請求する正当な利益を欠く。
結論
職務執行停止後の登記手続は形式的には瑕疵があるが、実体関係に符合する限り、上告人は被上告人に対し登記の移転や抹消を請求することはできない。
実務上の射程
仮処分命令の効力発生時期(送達時)の画定として重要。また、登記手続の有効性と実体関係の合致を切り離して考える不動産登記法の一般原則を確認しており、実務上、無効な代理人による登記でも実体関係が伴っていれば有効性が維持される場面で引用できる。
事件番号: 昭和28(オ)843 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基き所有者名義人に対し、所有権移転登記の請求を為し得るものと解すのが相当である。
事件番号: 昭和35(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第五五〇条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。
事件番号: 昭和41(オ)1234 / 裁判年月日: 昭和44年12月19日 / 結論: 棄却
不動産の買主がその売主に対してなしたいわゆる処分禁止の仮処分がある場合に、右不動産の他の買主が同一不動産について第二次の処分禁止の仮処分をすることは妨げられないが、第一次仮処分の債権者が、被保全権利の実現として、右売買契約に基づく所有権移転登記を経由したときは、第二次仮処分の債権者は、自己の仮処分の効力を主張して右所有…
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。