判旨
不動産売買の売主が所有権移転登記手続の代理権を授与した後、受任者が売主の死亡後に代理人として登記を申請した場合、その登記手続は有効である。
問題の所在(論点)
本人の死亡後に、生前授与された代理権に基づいて行われた所有権移転登記手続の効力(民法111条1項1号と登記実務の関係)。
規範
本人の死亡により代理権は消滅するのが原則である(民法111条1項1号)。しかし、既に成立している売買等の実体関係に基づき、その履行行為として行われる登記申請については、本人の死亡後であっても代理権の行使(登記申請手続の実行)は有効と解される。
重要事実
上告人の被相続人Dは、本件不動産を被上告人に売却し、その所有権移転登記手続の代理権を姉であるEに授与した。その後、Dが死亡したが、受任者EはDの死亡後にDの代理人として本件所有権移転登記手続を実行した。これに対し、上告人はDの死亡により代理権が消滅しているとして、登記の無効を主張した。
あてはめ
Dは生前、被上告人との間で有効に不動産売買契約を締結し、これに伴う登記申請事務をEに委任している。Eによる登記申請は、既に発生している登記義務の履行にすぎず、新たな法律関係を創設するものではない。大審院以来の判例によれば、このような場合には本人の死亡後であっても登記手続の有効性が認められる。したがって、本件においてもEがDの死亡後にした登記申請は適法な代理権の行使として有効であると評価される。
結論
本件所有権移転登記は有効であり、上告人の請求(登記無効の主張)は認められない。
実務上の射程
民法111条1項1号の例外として、不動産登記法上の委任状による代理権の存続を認めた実務上極めて重要な判例である。答案上では、本人の死亡後に代理人が行った行為の効力が争点となる際、特に「既発生の義務の履行」という性質を持つ登記申請においては、代理権の消滅を否定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)563 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 棄却
被相続人の訴訟代理人であつた者は、被相続人の死亡による訴訟承継の結果、新たに当事者となつた相続人の訴訟代理人として訴訟行為をなすことができるものと解すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年8月26日 / 結論: 棄却
一 後見人の職務執行停止の仮処分命令において、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずる。 二 甲所有の不動産を、その後見人乙が代理して丙に譲渡し、乙の職務執行停止の仮処分がなされた後乙は丙のために移転登記をなし、ついで丙は同不動産を丁に譲渡し移転登記をした場合に、甲は丁に対して…
事件番号: 昭和31(オ)144 / 裁判年月日: 昭和34年2月13日 / 結論: 棄却
売買契約締結の代理権を授与された者は、特段の事情がないかぎり、相手方から、旧民法第八八七条に基く当該売買契約取消の意思表示を受ける権限をも有するものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和28(オ)843 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基き所有者名義人に対し、所有権移転登記の請求を為し得るものと解すのが相当である。