売買契約締結の代理権を授与された者は、特段の事情がないかぎり、相手方から、旧民法第八八七条に基く当該売買契約取消の意思表示を受ける権限をも有するものと解するのが相当である。
売買契約締結の代理人と契約取消の意思表示を受ける権限の有無
民法99条
判旨
売買契約締結の代理権を授与された者は、特段の事情がない限り、相手方による当該売買契約の取消しの意思表示を受領する権限(受領代理権)をも有する。
問題の所在(論点)
売買契約の締結に関する代理権を授与された代理人が、当該契約に対する相手方からの取消しの意思表示を受領する権限(民法103条、99条2項に関連)を有するか。
規範
売買契約締結の代理権を授与された代理人は、特段の事情がない限り、契約の効力を否定しようとする相手方からの意思表示(取消し等)を受領する権限を当然に有すると解するのが相当である。
重要事実
上告人はDに対し、本件売買契約を締結する代理権を与えていた。その後、相手方から本件売買契約を取り消す旨の意思表示がなされたが、その送付先(受領者)は本人ではなく代理人Dであった。なお、事案において別の抵当権設定に関する親族会の同意は存在したが、本件売買そのものに対する適切な同意は存在しなかった。
事件番号: 昭和40(オ)1304 / 裁判年月日: 昭和41年10月21日 / 結論: 棄却
共同売主たる甲乙に対する代金金額の供託が供託物還付請求権者甲のみの表示をもつてなされ、乙との関係が供託書上に何ら表示されていないとしても、乙が右売買取引に関する一切の代理権を甲に与えている以上、該供託は右代金債務全部に対する弁済供託としての効力を有するものと解して妨げない。
あてはめ
本件においてDは売買契約締結の代理権を授与されており、契約当事者間の窓口としての役割を果たしていた。このような締結代理権を持つ者に対して、契約を解消する取消しの意思表示がなされることは契約の付随的範囲内といえる。特段の事情、すなわち受領権限を明示的に制限するなどの事情が認められない以上、相手方がDに対して行った取消しの意思表示は有効に効力を発揮する。
結論
売買契約締結の代理権には取消しの意思表示の受領権限も含まれるため、代理人に対してなされた取消しの意思表示は有効である。
実務上の射程
契約締結代理権の範囲を画定する際の重要判例である。代理権の範囲には、契約を成立させる権限だけでなく、その契約の帰趨に関わる意思表示(解除や取消し)を受領する権限まで含まれるとするのが実務の原則的な取り扱いである。答案上は、代理権の範囲が争点となる場面で、契約の締結・履行に関連する付随的権限として援用する。
事件番号: 昭和33(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和35年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買の売主が所有権移転登記手続の代理権を授与した後、受任者が売主の死亡後に代理人として登記を申請した場合、その登記手続は有効である。 第1 事案の概要:上告人の被相続人Dは、本件不動産を被上告人に売却し、その所有権移転登記手続の代理権を姉であるEに授与した。その後、Dが死亡したが、受任者Eは…
事件番号: 昭和44(オ)174 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、その所有の不動産を乙に売り渡し、乙の代理人丙を介して白紙委任状、名宛人白地の売渡証書など登記関係書類を交付したところ、右不動産の所有権を取得した乙から、これを丁所有の不動産と交換することを委任されて右各書類の交付を受けた丙が、これを濫用し、甲の代理人名義で丁との間で交換契約を締結したときは、丁において丙に代理権が…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和32(オ)619 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条にいう「正当の理由」とは、第三者(相手方)において代理人に権限があると信ずるにつき過失がないことを意味し、過失がある場合には表見代理は成立しない。 第1 事案の概要:上告人(相手方)は、代理権を欠く者との間で取引を行ったが、原審において、当該代理人に権限があると信ずるにつき上告人に過失…