共同売主たる甲乙に対する代金金額の供託が供託物還付請求権者甲のみの表示をもつてなされ、乙との関係が供託書上に何ら表示されていないとしても、乙が右売買取引に関する一切の代理権を甲に与えている以上、該供託は右代金債務全部に対する弁済供託としての効力を有するものと解して妨げない。
還付請求権の代理関係が供託書に表示されていない場合の弁済供託の効力
民法99条,民法479条,供託法9条
判旨
不動産取引に関する一切の代理権を有する者が、代金受領の権限をも有している場合、供託書に還付請求権者として当該代理人のみを表示したとしても、本人との関係で有効な弁済供託としての効力を有する。
問題の所在(論点)
不動産取引の一切の代理権を有する代理人が代金受領権限も有する場合において、供託書に代理人のみを還付請求権者として記載した弁済供託が、本人に対する関係で有効な弁済としての効力を有するか。
規範
不動産取引に関する「一切の代理権」を授与された代理人は、その取引に伴う代金の受領権限も有するものと解される。したがって、債務者が供託を行う際、被供託者として本人を表示せず代理人のみを表示した場合であっても、当該代理人に受領権限が認められる限り、当該供託は本人に対する債務全部の弁済供託として有効である。
重要事実
不動産売買において、売主の一人である上告人A1は、他の売主である上告人A2に対し、本件不動産の取引に関する一切の代理権を与えていた。買主である被上告人は、売買代金の弁済として供託を行ったが、その際、供託書の還付請求権者(被供託者)の欄には代理人であるA2のみを表示し、本人A1に関する表示を一切行わなかった。
事件番号: 昭和31(オ)144 / 裁判年月日: 昭和34年2月13日 / 結論: 棄却
売買契約締結の代理権を授与された者は、特段の事情がないかぎり、相手方から、旧民法第八八七条に基く当該売買契約取消の意思表示を受ける権限をも有するものと解するのが相当である。
あてはめ
上告人A1は、本件不動産取引に関する一切の代理権をA2に授与していた。この包括的な授与により、A2は代金全額を受領する権限をも有していたと認められる。被上告人が供託にあたり、還付請求権者としてこの受領権限あるA2のみを表示したことは、実質的に適法な受領権者に対して供託したのと同視できる。したがって、A1の氏名が表示されていなくとも、A1に対する代金債務の弁済としての効力を妨げるものではない。
結論
本件供託は、上告人A1に対する代金債務全部について有効な弁済供託としての効力を有する。
実務上の射程
代理人が受領権限を有する場合の供託の有効性を認めた事例である。答案上では、受領権限の範囲の認定から、被供託者の表示に欠落があっても目的を達し得る場合には有効な弁済になり得るという論理で活用できる。代理権の範囲に受領権限が含まれるかどうかが前提として重要となる。
事件番号: 昭和44(オ)174 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、その所有の不動産を乙に売り渡し、乙の代理人丙を介して白紙委任状、名宛人白地の売渡証書など登記関係書類を交付したところ、右不動産の所有権を取得した乙から、これを丁所有の不動産と交換することを委任されて右各書類の交付を受けた丙が、これを濫用し、甲の代理人名義で丁との間で交換契約を締結したときは、丁において丙に代理権が…
事件番号: 昭和41(オ)60 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
不動産の処分を委ねられた者が、代理の形式によらず自己の名で該不動産を第三者に譲渡した場合でも、所有権は本人から該第三者に移転する。
事件番号: 昭和30(オ)441 / 裁判年月日: 昭和32年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買の表見代理(民法110条等)において、相手方が本人に直接確認せず、委任状等の提示を求めなかったとしても、諸般の事情により代理権があると信じるにつき正当な理由が認められる場合がある。 第1 事案の概要:上告人(本人)所有の本件土地家屋につき、Dが上告人の代理人と称して被上告人(相手方)との…
事件番号: 昭和38(オ)960 / 裁判年月日: 昭和41年2月17日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】訴訟代理人が上告取下および復代理人選任の特別授権を受けている場合、当該代理人から適法に復任された復代理人が行う上告取下げは、本人が直接復代理人に授権していなくとも有効である。 第1 事案の概要:上告人らは弁護士Eに対し、上告取下げおよび復代理人選任の特別授権を含む訴訟委任をしていた。Eは、相手方と…