所有権の時効取得の主張について判断遺脱の違法があるとされた事例
判旨
当事者が主張している主要な争点について、裁判所が判断を示さないことは、判決の結論に影響を及ぼす明らかな判断遺脱であり、上告理由となる。本件では、土地の時効取得の主張に対し判断を示さなかった原判決を破棄し、差し戻した。
問題の所在(論点)
当事者が主要な防御方法として主張した「時効取得」の成否について、裁判所が判決で判断を示さないことは、判決に影響を及ぼすべき判断の遺脱に該当するか。
規範
当事者が訴訟において適切に提出し、かつ判決の結果を左右する重要な主張(主要事実等)については、判決理由において判断を示さなければならない。これに反し判断を遺脱した場合、その内容が判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであれば、民事訴訟法上の上告理由(判決に影響を及ぼすべき法令の違反等)に該当する。
重要事実
上告人(被告または控訴人)は、本件土地について時効による所有権の取得を主張していた。しかし、原審(東京高等裁判所)は、この上告人による時効取得の主張に対し、判決理由の中で何ら判断を示さなかった。
あてはめ
上告人は本件土地の所有権取得を時効に基づき主張しており、これは本件の結論に直結する重要な主張である。それにもかかわらず、原判決がこの点について判断を全く示していないことは、判決の正当性を担保するための理由付記義務を欠くものである。このような判断の遺脱は、結論を左右する蓋然性が高く、判決に影響を及ぼすことが明らかであるといえる。
結論
時効取得の主張に対する判断を遺脱した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるため、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を東京高等裁判所に差し戻す。
事件番号: 昭和44(オ)431 / 裁判年月日: 昭和46年6月18日 / 結論: 破棄差戻
当事者が代物弁済予約の存在を前提に、その予約完結に基づく本登記義務の存否を争つている場合において、裁判所が審理の結果、右予約の実質は、債権担保のための清算型代物弁済予約であり、しかも、後順位抵当権が実行中であつて、右請求がそのまま認容しえないことが判明したときは、裁判所は、当事者に対し、その法律関係について釈明を求める…
実務上の射程
実務上、当事者が主張した主要事実(抗弁等)について、裁判所が証拠調べや判断を漏らした場合には、民事訴訟法上の上告理由となる。答案作成においては、主張立証が尽くされた論点について裁判所が判断を回避した場合の「理由不備・理由食い違い」を論じる際の手がかりとなる。
事件番号: 昭和42(オ)549 / 裁判年月日: 昭和43年2月1日 / 結論: 棄却
文書提出の申立については、必ずしも明示的に裁判しなければならないものではなく、黙示的にすることも許されると解すべきである。
事件番号: 昭和32(ヤ)25 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】上告裁判所は不服申立ての限度でのみ調査義務を負うため、上告理由として主張されていない事項や、適法な期間経過後に提出された補充書記載の事項について判断を示さなくとも、判決に影響を及ぼすべき重要な事項の判断遺脱(民事訴訟法第338条1項9号)には当たらない。 第1 事案の概要:再審原告は、前審の上告判…
事件番号: 昭和25(オ)129 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証拠の採否について自由な心証を有するものであり、採用しなかった証拠についてその理由を判決書に記載する必要はない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が特定の証人の証言を採用しなかったにもかかわらず、その理由を説明しなかったことは違法であると主張して上告した。また、訴訟物の価格の算定、事実認…
事件番号: 昭和27(オ)850 / 裁判年月日: 昭和29年2月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件上告は、最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律の定める上告理由のいずれにも該当せず、法令の解釈に関する重要な主張も含まないため、棄却されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、原判決を不服として上告を申し立てたが、提出された論旨の内容が上記特例法に定める要件を満たしているか…