土地所有者が同土地上の配水管等の撤去を求めることによつて受ける利益は比較的僅少であるのに、右配水管等の設備が市民約七万人の利用のため巨額の資金、多数の日子を費して敷設掘鑿されたものであり、これを撤去して原状に回復して新たに替地を求めて同一設備を完成するためには多額の費用と日子を要する等判示事実関係のあるときには、右工作物の撤去を求めることは権利の濫用である。
土地所有権に基づく同土地上の工作物の撤去を求めることが権利濫用と認められた事例
民法1条
判旨
所有権に基づく配水管等の撤去請求であっても、請求者が受ける利益が僅少であるのに対し、相手方や社会公共に不測かつ重大な損害が生じる場合には、権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
土地所有権者が、登記を具備していない対抗要件不備の占有者(配水管設置者)に対し、所有権に基づき妨害排除請求(配水管撤去請求)を行うことが、権利の濫用(民法1条3項)に該当し許されないとされる場合があるか。
規範
民法1条3項の権利濫用にあたるか否かは、権利の行使によって権利者が得る利益と、相手方が受ける不利益および社会公共に及ぼす影響を比較衡量して判断する。特に、撤去によって得られる個人の利益に比して、撤去に伴う社会的・経済的損失が著しく巨大であり、公共の福祉に重大な支障を来す場合には、その行使は正当な範囲を超えるものと解する。
重要事実
上告人は、山林の所有権移転登記を具備しており、同土地の一部に被上告人の配水管等が設置されていることを理由に、その撤去を求めた。当該配水管設備は、仙台市民約7万人の利用に供される大規模な総合水道幹線の枢要部分であり、巨額の資金と期間を投じて敷設されたものである。撤去した場合、再設置には多額の費用と長期間を要し、その間は市民への給水機能が停止する事態となる一方、上告人が撤去によって受ける利益は比較的僅少であった。
事件番号: 昭和39(オ)1002 / 裁判年月日: 昭和41年9月22日 / 結論: 棄却
町が私道に設置した排水用土管の撤去を求める私道所有者の請求は、同人になんらの利益をもたらさない場合には、権利の濫用として許されない。
あてはめ
上告人が配水管撤去によって受ける利益は「比較的僅少」である。これに対し、本件配水管は「市民約7万人の利用」に供される「総合水道幹線の枢要部分」であり、撤去による「給水の機能停止」は「市民一般に不測かつ重大な損害」をもたらす。さらに、再設置には「多額の費用と日子」を要し、現状回復による社会的損失が極めて大きい。したがって、私益の保護よりも公共的利益の維持が優先されるべき状況にあり、撤去請求は権利の正当な行使を逸脱しているといえる。
結論
上告人の本訴請求は権利の濫用にあたり、認められない。上告を棄却する。
実務上の射程
二重譲渡類似の事案で登記を具備した勝者が請求を行う場合であっても、請求対象物が公共性の高いインフラ(水道、送電網等)であり、かつ請求者の利益と社会的不利益が著しく不均衡な場合には、権利濫用の法理により請求が排斥されることを示した。所有権の絶対性を修正する具体的基準として活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)246 / 裁判年月日: 昭和28年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利濫用に該当するか否かは、当該権利行使の目的、態様、およびその行使によって得られる利益と失われる利益との権衡を総合的に考慮して判断される。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本訴請求(詳細な請求内容は判決文からは不明)に対し、当該請求が権利の濫用に該当すると主張して争った。原…
事件番号: 昭和29(オ)72 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が形式上は正当なものであっても、具体的諸事情の下で社会観念上、権利の濫用(民法1条3項)と認められる場合には、その行使は許されない。本件では原審の認定に基づき、被上告人の請求が権利の濫用に当たらないとした判断が支持された。 第1 事案の概要:本件判決文の記述からは具体的な事案の詳細は不明…
事件番号: 昭和47(オ)659 / 裁判年月日: 昭和49年6月28日
【結論(判旨の要点)】公道上に設置された電柱の敷地利用権を競売手続の買受人が取得した場合において、電柱の移設が技術的に困難であり、かつ多額の費用を要する一方で、所有者が受ける不利益が僅少であるときは、移設請求は権利の濫用に当たる。 第1 事案の概要:本件は、競売により土地を取得した所有者が、当該土地の公道上に設置されて…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…