割賦弁済の懈怠を停止条件とする担保物の代物弁済の予約がある場合に、債務者について整理開始の決定があり、金銭債務の支払を禁ぜられたときは、債務者は以後弁済の提供をするに由なく、その不履行を前提とする予約完結の意思表示は効力を生じない。
商法第三八六条第一項第一号により金銭債務の支払を禁止された場合と割賦弁済の不履行を条件とする代物弁済予約完結の成否
商法386条1項1号
判旨
整理開始決定がなされた後は、債務者は弁済の提供をする必要がなくなり、その不履行を前提とする代物弁済完結の意思表示は効力を生じない。
問題の所在(論点)
株式会社について整理開始の決定(旧商法381条1項、現在の会社更生や民事再生手続に相当する局面)がなされた後において、債務者が弁済の提供をしないことを条件とする代物弁済予約の完結権行使が認められるか。
規範
商法上の整理開始決定(旧法)がなされた場合、会社は個別の債務の弁済が禁止され、整理手続の枠組みに拘束される。したがって、決定後は債務不履行を理由とする権利行使(代物弁済予約の完結権行使等)の前提となる「弁済の提供」をすべき法的義務がなくなり、その不履行を理由とする特約の効力発生は否定される。
重要事実
被上告会社に対して整理開始の決定がなされた。上告人は、被上告会社による債務の不履行(弁済の不存在)を前提として、あらかじめ合意されていた代物弁済予約に基づく完結の意思表示を行った。これに対し、整理開始決定後の不履行を理由に代物弁済の効力を主張できるかが争われた。
事件番号: 昭和39(オ)919 / 裁判年月日: 昭和40年3月11日 / 結論: 棄却
不動産を目的とする代物弁済の予約完結の意思表示がなされたときは、これにより、該不動産の所有権移転の効果が生ずるものと解すべきである。
あてはめ
被上告会社について整理開始の決定がなされた以上、会社は清算・再建手続の管理下に置かれ、個別の債権者に対して恣意的に弁済を行うことは許されない。このような法的制約下では、被上告会社は上告人に対して「弁済の提供をするに由なく」、弁済をしないことが違法な不履行とは評価されない。したがって、不履行を停止条件ないし行使条件とする代物弁済完結の意思表示は、その前提を欠き、効力を生じないものと解される。
結論
整理開始決定後の債務不履行を前提とする代物弁済完結の意思表示は無効である。
実務上の射程
倒産・再生手続開始決定によって弁済禁止の効力が生じた場合、それ以前に締結されていた代物弁済予約や解除権の発生要件としての「債務不履行」が観念できなくなるという法理を示す。現在の民事再生法や会社更生法下における相殺禁止や弁済禁止の解釈においても、手続開始による義務の変容を説明する際の参考となる。
事件番号: 昭和39(オ)277 / 裁判年月日: 昭和40年4月16日 / 結論: 棄却
抵当権設定契約と併存的に債務不履行を停止条件とする代物弁済の本契約を締結する趣旨が当事者の意思表示条明確である場合には、これを代物弁済の予約と解しなければならないことはない。
事件番号: 昭和40(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和43年2月29日 / 結論: 棄却
貸金債権担保のため不動産に抵当権が設定され、あわせて同一債権保全のため右不動産について代物弁済の予約が締結された場合において、右抵当権の実行による競売手続が開始したときは、右競売手続が競売申立の取下その他の事由により終了しないかぎり、債権者が代物弁済の予約の完結権を行使することは許されない。
事件番号: 昭和42(オ)359 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 棄却
滞納処分により差押えられている不動産の目的として代物弁済の予約がされても、予約当事者間においては有効である。
事件番号: 昭和39(オ)1367 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
一 債権担保の機能を営む代物弁済の予約がされた後、被担保債権の一部が弁済されても、反対の特約または権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、当該予約完結権の行使は妨げられない。 二 前項の場合において、予約完結権を行使した債権者は、特段の事情がないかぎり、一部弁済としてすでに受領した金員を債務者に返還する義務…