不動産を目的とする代物弁済の予約完結の意思表示がなされたときは、これにより、該不動産の所有権移転の効果が生ずるものと解すべきである。
不動産を目的とする代物弁済と該不動産所有権移転の時期。
民法482条,民法176条
判旨
不動産所有権の譲渡による代物弁済において、債務消滅の効果は移転登記の完了まで生じないが、所有権移転の効力は予約完結の意思表示(または代物弁済の合意)によって生じる。
問題の所在(論点)
不動産の譲渡をもってする代物弁済において、移転登記が完了する前であっても、予約完結の意思表示のみによって不動産の所有権移転の効力が生じるか。また、債務消滅の効果との関係をいかに解すべきか。
規範
代物弁済(民法482条)による債務消滅の効果が発生するためには、原則として登記等の対抗要件を具備する必要がある。しかし、債務消滅という目的の達成(弁済の効力)と、その手段としての所有権移転の効力は区別される。したがって、当事者間において不動産所有権を譲渡する旨の代物弁済予約がなされ、その予約完結権が行使された場合、所有権移転の効果自体は意思表示のみによって生ずる。
重要事実
債権者(被上告人)と債務者(上告人)との間で、債務の弁済に代えて不動産の所有権を譲渡する旨の代物弁済予約が締結された。その後、債権者が予約完結の意思表示を行ったが、当該不動産の所有権移転登記は未了の状態であった。上告人は、登記が完了していない以上、代物弁済の効力は生じず、所有権も未だ移転していないと主張して争った。
事件番号: 昭和39(オ)277 / 裁判年月日: 昭和40年4月16日 / 結論: 棄却
抵当権設定契約と併存的に債務不履行を停止条件とする代物弁済の本契約を締結する趣旨が当事者の意思表示条明確である場合には、これを代物弁済の予約と解しなければならないことはない。
あてはめ
代物弁済は要物契約的性質を有し、債務消滅という「弁済」の効果を生じさせるには引渡しや登記等の給付完了を要すると解される。もっとも、所有権の移転は当事者の意思表示によって生じるのが原則(民法176条)である。本件において、原審が認定した事実関係によれば、代物弁済予約に基づき予約完結の意思表示がなされている。この意思表示は、不動産の所有権を移転させる債権的合意を完結させるものであるから、登記が未了であっても、当事者間における所有権移転の効果を妨げるものではないといえる。
結論
不動産所有権の譲渡を目的とする代物弁済において、移転登記が完了する前であっても、予約完結の意思表示により不動産の所有権は債権者に移転する。
実務上の射程
代物弁済における「所有権移転時期(物権変動)」と「債務消滅時期(弁済の効果)」を切り分ける判例として重要である。司法試験においては、代物弁済により不動産を取得した者が第三者に対し所有権を主張する場合や、債務消滅の成否が争点となる場面で、登記の要否を書き分ける際に用いる。
事件番号: 昭和47(オ)1121 / 裁判年月日: 昭和49年3月19日 / 結論: その他
賃貸中の宅地を譲り受けた者は、その所有権の移転につき登記を経由しないかぎり、賃貸人たる地位の取得を賃借人に対抗することができない。
事件番号: 昭和42(オ)359 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 棄却
滞納処分により差押えられている不動産の目的として代物弁済の予約がされても、予約当事者間においては有効である。
事件番号: 昭和40(オ)420 / 裁判年月日: 昭和42年9月12日 / 結論: 棄却
割賦弁済の懈怠を停止条件とする担保物の代物弁済の予約がある場合に、債務者について整理開始の決定があり、金銭債務の支払を禁ぜられたときは、債務者は以後弁済の提供をするに由なく、その不履行を前提とする予約完結の意思表示は効力を生じない。
事件番号: 昭和40(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和43年2月29日 / 結論: 棄却
貸金債権担保のため不動産に抵当権が設定され、あわせて同一債権保全のため右不動産について代物弁済の予約が締結された場合において、右抵当権の実行による競売手続が開始したときは、右競売手続が競売申立の取下その他の事由により終了しないかぎり、債権者が代物弁済の予約の完結権を行使することは許されない。