一 債権担保の機能を営む代物弁済の予約がされた後、被担保債権の一部が弁済されても、反対の特約または権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、当該予約完結権の行使は妨げられない。 二 前項の場合において、予約完結権を行使した債権者は、特段の事情がないかぎり、一部弁済としてすでに受領した金員を債務者に返還する義務を負うものと解するのが相当である。
一 一部弁済と代物弁済予約完結権の行使。 二 右の場合における内入弁済金返還の要否。
民法482条
判旨
被担保債権に一部弁済があっても、反対の特約や権利濫用等の特段の事由がない限り、債権者は担保目的物全部について代物弁済予約完結権を行使できる。
問題の所在(論点)
被担保債権の一部について弁済がなされた場合、債権者は担保目的物全体に対して代物弁済予約完結権を行使することができるか。担保権の不可分性の適用の有無が問題となる。
規範
代物弁済予約による権利は実質的に債権担保の機能を営むため、留置権の不可分性を定める民法296条の規定が類推適用される。したがって、債務の全部弁済がない限り、反対の特約や権利の濫用と認められるような特段の事由がない限り、債権者は予約完結権を行使し得る。この場合、完結権を行使した債権者は、既に受領していた一部弁済金を債務者に返還する義務を負うにとどまる。
重要事実
上告人はDに対し16万円の債務を負っていたが、そのうち9万円を内入弁済した。Dは被上告人に対し、残債務を担保するための抵当権および代物弁済予約上の権利を譲渡した。被上告人は、残債務の不履行を理由に代物弁済予約完結権を行使し、上告人所有の家屋について本登記および明渡しを求めた。これに対し上告人は、一部弁済により担保権もその限度で消滅しており、全額を対象とした予約完結権の行使は認められないと主張した。
事件番号: 昭和39(オ)277 / 裁判年月日: 昭和40年4月16日 / 結論: 棄却
抵当権設定契約と併存的に債務不履行を停止条件とする代物弁済の本契約を締結する趣旨が当事者の意思表示条明確である場合には、これを代物弁済の予約と解しなければならないことはない。
あてはめ
本件において、上告人による弁済は16万円のうち9万円にとどまり、債務の全部弁済はなされていない。また、一部弁済があった場合に予約完結権の行使を制限するような「反対の特約」の存在や、権利の行使が「権利の濫用」にあたるような特段の事由の主張立証もない。したがって、担保権の不可分性に基づき、被上告人は残存債権のために目的物である家屋全体について予約完結権を行使することができる。債権者は既受領の9万円を返還すれば足り、予約完結権の行使自体は有効である。
結論
被上告人による予約完結権の行使は有効であり、目的物の所有権は被上告人に帰属する。上告人は本登記および明渡し義務を負う。
実務上の射程
非典型担保(譲渡担保や代物弁済予約)においても、民法296条の不可分性が類推適用されることを示した重要な判例である。答案上では、一部弁済による担保権の消滅を主張する相手方に対し、不可分性を根拠に反論する際の規範として活用する。ただし、清算金の授受や一部弁済金の返還関係が生じる点に留意が必要である。
事件番号: 昭和42(オ)1239 / 裁判年月日: 昭和43年3月8日 / 結論: 棄却
将来の債権のため根担保の意味で順次二口の代物弁済予約が締結され、その際予約完結時において消滅させるべき債権額についてなんらの合意がされていない等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、当事者は予約完結権の行使後目的物件を換価または評価してその金額を債権の弁済に充当し、過不足があればその清算をする意思を有するもの…
事件番号: 昭和39(オ)1481 / 裁判年月日: 昭和41年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権担保のため抵当権設定と共に代物弁済予約がなされた場合、元本の一部弁済があっても残債務がある限り予約は失効せず、完結権の行使は有効である。また、予約に基づく仮登記がある場合でも、債権者は仮登記の本登記手続によらず、直接代物弁済を原因とする所有権移転登記を請求できる。 第1 事案の概要:被上告人は…
事件番号: 昭和39(オ)1368 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。
事件番号: 昭和32(オ)1201 / 裁判年月日: 昭和34年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が元本の一部を弁済したとしても、当然に代物弁済予約を失効させる合意があったとは認められず、また予約完結権を行使し得る状況でこれを行使せず債務の履行を一部受けていたとしても、特段の事情がない限り、それは権利の放棄ではなく履行の猶予と解される。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)と債務者(上告…