甲から乙へ家屋所有権が譲渡により移転したる後、甲から右家屋を賃借して引渡を受けた丙は、その後に右所有権移転登記を受けた乙に対し、右賃借権を以て対抗することができる。
借家の所有権移転登記と借家法第一条
民法177条,借家法1条
判旨
建物の売渡担保権者が所有権移転登記を具備する前に、設定者から当該建物を賃借し引き渡しを受けた者は、借家法(当時)上の対抗要件を備えた第三者として、担保権者に対し賃借権を対抗できる。
問題の所在(論点)
売渡担保の設定後、担保権者が所有権移転登記を備える前に、設定者から物件を賃借し引渡しを受けた者は、担保権者に対して賃借権を対抗できるか。担保権者が「第三者」にあたるか、あるいは無権利者からの譲受けとなるかが問題となる。
規範
不動産の譲渡担保(売渡担保)において、債権者が所有権の取得を第三者に対抗するためには、民法177条に基づき登記を要する。また、建物賃借人が引渡しを受けている場合、その後に所有権移転登記を備えた譲受人(担保権者)に対しては、建物賃借権を対抗することができる(借家法1条、現借地借家法31条参照)。
重要事実
A2は被上告人に対し、本件建物を売渡担保に供して所有権を移転したが、その時点では被上告人名義の所有権移転登記は未了であった。その後、A1はA2から本件建物を賃借し、その引渡しを受けた。被上告人が本件建物の所有権移転登記を完了したのは、A1が引渡しを受けた後のことであった。被上告人はA1に対し、所有者ではないA2からの賃借権は対抗できないとして、建物の明け渡しを求めた。
あてはめ
本件において、A1は昭和30年1月1日にA2から建物を賃借し引渡しを受けた。対して、被上告人が売渡担保に基づく所有権移転登記を経たのは同年2月25日である。売渡担保による所有権移転であっても、対抗関係においては民法177条の適用を受ける。したがって、登記を先に備えていない被上告人は、引渡しという対抗要件を先に備えた賃借人A1に対し、所有権の取得を主張できない。A2が所有権を失った後の処分であっても、登記未了の間はA2に処分権限の外観があり、対抗問題として処理されるべきである。
結論
賃借人が引渡しを受けた後に所有権移転登記を経た売渡担保権者は、当該賃借人に対して所有権に基づく明渡請求をすることができず、賃借人は賃借権を対抗できる。
実務上の射程
譲渡担保・売渡担保における対抗関係(民法177条)と借地借家法31条の関係を示す重要判例。担保権者と設定者からの後続取得者(賃借人等)の関係は対抗関係に立つという準則を答案作成上の前提とする。事案の前後関係(引渡しと登記の先後)に注目してあてはめる際に活用する。
事件番号: 昭和32(オ)2 / 裁判年月日: 昭和32年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃借人は、対抗要件を備えていない限り、建物の譲受人に対して賃借権を主張してその明渡しを拒むことはできない。 第1 事案の概要:上告人は本件家屋の賃借人であり、被上告人は当該家屋を取得した譲受人である。上告人は被上告人に対し、賃借権を根拠として本件家屋の明渡しを拒絶した。なお、判決文からは上告…