一、不動産の賃借人は、賃貸人からその不動産の所有権の譲渡を受けたと主張する者との関係においては、民法一七七条にいう第三者に該当する。 二、不動産登記法七八条五号及び九一条一項六号の各規定による所有権の登記は、民法一七七条所定の登記に該当しない。
一、不動産の賃借人と民法一七七条の第三者 二、不動産の表示の登記と民法一七七条
民法177条,民法601条,不動産登記法78条5号,不動産登記法91条1項6号
判旨
不動産の譲受人が賃貸人としての地位を賃借人に対抗するには、民法177条の「第三者」にあたる賃借人に対し、所有権移転登記を具備する必要がある。また、表示に関する登記には同条の対抗力は認められず、訴訟上の明渡請求等の行為が賃貸借契約の黙示の解除意思表示と認められる場合がある。
問題の所在(論点)
1. 不動産の譲受人が、賃借人に対して賃貸人たる地位を主張するために登記が必要か(民法177条の「第三者」の範囲)。 2. 不動産登記法上の表示に関する登記に、民法177条の対抗力が認められるか。 3. 訴訟において所有権に基づき明渡を求める申立や陳述が、賃貸借契約の黙示の解除意思表示にあたるか。
規範
1. 不動産の賃借人は、賃貸人から所有権を譲り受けたと主張する者との関係において、民法177条の「第三者」に該当する。したがって、譲受人が賃貸人たる地位を対抗するには、所有権移転登記を要する。 2. 不動産登記法上の表示に関する登記(旧法78条5号等)は、納税義務者の表示や保存登記の申請適格を示すためのものであり、民法177条所定の権利に関する登記としての効力(対抗力)を有しない。 3. 所有権に基づき建物の明渡を求める訴訟上の請求や陳述は、賃借人の権利を否定するものであるから、特段の事情がない限り、賃貸借契約を解除する旨の黙示の意思表示と解しうる。
重要事実
上告人(譲受人)は本件建物の所有権を取得し、賃借人である被上告人らに対し、建物明渡を請求した。上告人は、建物の表示に関する登記がなされていること、および訴訟において保存登記を経由した旨を主張し、明渡を求めた。しかし、原審は賃貸借関係の有無や解除の成否について十分な判断を示さなかったため、上告人が改めて訴訟代理人を通じて明渡請求を維持し、賃借権の存在を否定する陳述を行っていた事実が問題となった。
あてはめ
1. 賃借人は、所有権の帰属について正当な利害関係を有する「第三者」であるため、上告人が賃貸人たる地位を主張するには登記が必要である。 2. 上告人が主張する表示に関する登記は、課税等の便宜を目的とするものであり、権利の所在を公示する民法177条の登記には当たらない。したがって、これをもって賃借人に対抗することはできない。 3. もっとも、上告人は保存登記を具備した上で、訴訟において被上告人らの賃借権を否定し、一貫して明渡を求めている。この申立および陳述は、仮に賃貸借契約が成立しているとしても、それを終了させるという「黙示の解除意思表示」を被上告人らに対して行ったものと評価するのが相当である。
結論
不動産の譲受人は登記がなければ賃借人に地位を対抗できないが、本件では有効な登記(保存登記)具備後の訴訟上の行為に黙示の解除意思表示が認められる余地がある。原審がこの点を確認しなかったことは判断遺脱にあたるため、破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
賃貸人地位の承継に関する対抗要件の原則(登記必要説)を確立した重要判例である。答案上は、まず177条の「第三者」として賃借人を挙げ、登記の欠缺を指摘した上で、表示登記の無効性や、訴訟行為による「黙示の解除」という救済法理をセットで論じる際に活用する。
事件番号: 昭和40(オ)272 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: その他
甲から乙へ家屋所有権が譲渡により移転したる後、甲から右家屋を賃借して引渡を受けた丙は、その後に右所有権移転登記を受けた乙に対し、右賃借権を以て対抗することができる。