判旨
不動産に関する所有権移転登記請求権保全の仮登記がなされた後、当該不動産について賃貸借契約を締結し引渡しを受けた賃借人は、その後仮登記に基づき本登記を完了した所有権者に対し、借家法1条(現行の借地借家法31条1項)の対抗力を主張して自己の賃借権を対抗することはできない。
問題の所在(論点)
不動産の所有権移転仮登記がなされた後に建物の引渡しを受けた賃借人は、その後仮登記に基づき本登記を経た所有者に対し、賃借権を対抗することができるか。
規範
不動産について所有権移転の仮登記がなされた後に賃借権が設定された場合、たとえ借家法(現借地借家法)上の対抗要件(引渡し等)を備えていても、その賃借権は仮登記に基づき本登記を具備した所有権者に優先しない。仮登記後の権利取得者は、本登記によって遡及的に生じる物権変動の結果として、その権利を対抗できなくなる。
重要事実
上告人(賃借人)は、本件建物について所有権移転登記請求権の仮登記がなされた後、被上告人(所有権者)が所有権を取得する前に、当時の所有者との間で期間3年の賃貸借契約を締結し、建物の引渡しを受けた。その後、被上告人は上記仮登記に基づき本登記を完了し、所有権を取得した。被上告人が上告人に対し建物の明渡しを求めたところ、上告人は借家法1条に基づき賃借権を対抗できると主張した。
あてはめ
本件において、上告人が主張する賃借権の設定および建物の引渡しは、いずれも本件建物に関する仮登記がなされた後に行われたものである。仮登記には後の本登記の順位を保全する効力があるため、仮登記後になされた賃借権の設定およびその引渡しという対抗要件の具備は、仮登記に基づき本登記を了した被上告人の所有権に対してはその優先順位を主張し得ない。したがって、借家法1条の引渡しがあったとしても、仮登記に後れる賃借権をもって対抗することは認められないと解される。
結論
仮登記後の賃借権取得者は、仮登記に基づき本登記を経た者に対し、引渡し等の対抗要件を備えていても賃借権を対抗できない。被上告人の明渡請求は正当である。
実務上の射程
本判決は、仮登記の順位保全効が建物賃借権の対抗力にも優先することを明示したものである。司法試験においては、抵当権と賃借権の優劣(民法395条等)と同様に、登記(仮登記)の前後による権利関係の優劣を論じる際の基礎となる。抵当権実行による競売だけでなく、本判決のような仮登記に基づく本登記の場合にも、対抗力の先後関係が排他的に決まる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和33(オ)235 / 裁判年月日: 昭和36年6月23日 / 結論: 棄却
民法第六〇二条所定の期間を超える建物賃貸借は、抵当権の登記後に成立したものであるときは、これを登記しても、右期間の範囲内においてもこれをもつて抵当権者兼競落人に対抗し得ない。