一 所有権移転請求権保全の仮登記後本登記をしたときは、仮登記の時以後におけるこれと相容れない中間処分の効力を否定することができるけれども、仮登記の時に所有権移転のあつた事実が擬制されるものではない。 二 家屋賃貸借が仮登記後の中間処分として本登記名義人に対抗できない場合でも、特段の事情のないかぎり、本登記名義人において現実に所有権を取得する以前、右賃貸借に基づく家屋占有により損害を被つたものと認むべきではない。
一 所有権移転請求権保全仮登記の効力。 二 仮登記ある不動産の賃貸借と本登記名義人に対する損害の発生。
不動産登記法2条,不動産登記法7条2項
判旨
仮登記に基づく本登記がなされた場合、仮登記後の相容れない中間処分の効力は否定されるが、所有権移転の効力が仮登記時に遡及するわけではない。したがって、不法行為に基づく損害賠償請求における損害の発生は、特段の事情のない限り、本登記により現実に所有権を取得した時以降に限定される。
問題の所在(論点)
仮登記に基づく本登記がなされた場合、物権変動の効力が仮登記時に遡及するか。また、本登記前の中間処分による占有に対し、不法行為に基づく損害賠償をどの範囲で請求できるか。
規範
1. 請求権保全の仮登記に基づき本登記がなされた場合、仮登記後になされた中間処分は、本登記に係る権利と相容れない限度でその効力が否定される。2. もっとも、仮登記に基づく本登記には順位保全効があるにとどまり、物権変動の効力が仮登記時に遡及して生ずるものではない。3. したがって、第三者の占有が不法行為を構成して損害賠償義務が生じるのは、現実に所有権を取得した時以降の損害に限られる。
重要事実
被上告人は、本件家屋について所有権移転請求権保全の仮登記を備えていた。その後、上告人が本件家屋について賃借権の設定を受け占有を開始した(中間処分)。その後、被上告人が右仮登記に基づく本登記を経由したため、上告人の賃借権は被上告人に対抗できなくなった。原審は、上告人の占有による損害について、被上告人が本登記を備える前の期間も含め、上告人が賃借を開始した翌日以降の全期間について損害賠償の支払いを命じた。
あてはめ
不法行為が成立するためには損害の現実の発生が必要である。仮登記に基づく本登記による中間処分の効力否定は、仮登記の時に所有権移転があったという事実を擬制するものではない。本件において、被上告人が本件家屋の所有権を現実に取得したのは本登記時(またはその原因となった物権変動時)であり、仮登記の時点ではない。それゆえ、特段の事情がない限り、上告人の占拠により被上告人に損害が生じるのは、被上告人が現実に所有権を取得した以後である。原審が、被上告人の現実の所有権取得時期を明らかにせず、漫然と賃借開始翌日からの損害を認めたのは審理不尽である。
結論
物権変動の効力は遡及しないため、不法行為に基づく損害賠償請求は、原則として本登記等により現実に所有権を取得した後の期間分についてのみ認められる。
実務上の射程
仮登記の順位保全効と物権変動の効力発生時期を峻別する際のリーディングケースである。答案上は、仮登記に基づく本登記による中間処分の排斥(対抗力の問題)と、不法行為や不当利得の成否(実体法上の権利取得時期の問題)を分けて論じる際に用いる。賃料相当損害金の起算点を論じる際に不可欠な視点である。
事件番号: 昭和35(オ)253 / 裁判年月日: 昭和37年9月18日 / 結論: 棄却
不動産について仮差押登記がなされた後その債務者から同不動産を賃借した者は、当該賃貸借をもつて仮差押事件の本案判決の執行により同不動産を取得した競落人に対抗することができない。