不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
不法行為による損害と弁護士費用
民法709条
判旨
違法な課税処分の取消訴訟を提起するために支出した弁護士費用は、事案の難易や請求額等を考慮して相当と認められる範囲内で、当該違法行為と相当因果関係のある損害にあたる。不法行為に基づく損害賠償請求において、権利擁護のために弁護士への委任が実質的に不可避である場合には、その費用も損害に含まれる。
問題の所在(論点)
公務員の過失による違法な課税処分がなされた場合において、その処分の取消を求めるために支出した弁護士費用は、国家賠償法1条1項にいう「損害」として相当因果関係が認められるか。
規範
不法行為(国家賠償法1条1項)に基づく損害賠償請求において、違法な行政処分を阻止し自己の権利を擁護するために訴訟を提起せざるを得ず、かつ、その訴訟追行に高度な専門的技術を要するため弁護士への委任が不可欠であると認められる場合、支出した弁護士費用のうち、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものは、当該違法行為と相当因果関係に立つ損害となる。
重要事実
税務署長は、上告人A1が不動産を贈与した日を誤認し、資産再評価税等の賦課決定を行った。しかし、登記簿を調査すれば贈与日が課税対象外の時期であることは容易に判明したはずであり、調査を怠った点に過失があった。A1は当該処分の取消を求めて審査請求をしたが棄却されたため、弁護士を代理人として取消訴訟を提起した。その後、弁護士が準備書面で具体的な違法事由を主張したところ、税務署長が誤りを認めて処分を取り消し、訴訟は取り下げられた。A1は、支出した弁護士費用等の賠償を求めて提訴した。
あてはめ
本件課税処分は、登記簿の調査を怠った税務署長の過失による違法な行為である。この処分を放置すれば滞納処分を受ける恐れがあり、権利擁護のためには取消訴訟を提起するほかない。また、取消訴訟は高度に専門的な技術を要し、一般人が弁護士に委任せず目的を達成することはほとんど不可能である。したがって、訴訟提起時に具体的な違法事由を特定していなかったとしても、訴訟追行のために支出を余儀なくされた弁護士費用は、相当な範囲内で本件違法行為と相当因果関係があるといえる。原審が因果関係を否定したのは、取消訴訟における主張の立証責任や訴訟の実態を鑑みれば失当である。
結論
違法な課税処分と取消訴訟のための弁護士費用との間には相当因果関係が認められる。相当な損害額を確定させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
行政処分の違法を理由とする国家賠償請求において、前置となる取消訴訟の弁護士費用を損害として計上する際のリーディングケースである。不法行為一般における弁護士費用相当損害の法理を公権力の行使の場面にも適用した点に意義がある。答案では、権利救済の必要性と専門性の観点から「支出の不可避性」を論じ、相当因果関係を肯定する流れで使用する。
事件番号: 昭和44(オ)556 / 裁判年月日: 昭和45年7月14日 / 結論: その他
物件を騙取された者が、これによつて被つた損害の賠償を求めて訴を提起するのやむなきにいたり、弁護士に訴訟委任をし、その手数料の支払を約したときは、右手数料もまた該不法行為によつて生じた損害として、その相当と認められる限度で賠償を請求することができる。