右に対し土地収用の場合と同一の取扱をしなければならぬ理由はない。
敗戦により朝鮮における不動産所有権を喪失した日本国民に対し土地収用法に準拠して補償をしなければならないか。
土地収用法1条,土地収用法68条
判旨
日本国の敗戦に伴う在外不動産所有権の喪失は公知の事実であるが、売買契約時に敗戦を予測できなかったことに過失があるとは認められず、また、領土権の放棄に伴う所有権喪失について国に損失補償義務や不法行為責任は生じない。
問題の所在(論点)
1. 戦時中の不動産売買において、将来の敗戦による所有権喪失を予測しなかったことに過失が認められるか。 2. 国が領土権を放棄したことにより国民が在外資産を喪失した場合、国は土地収用と同様の補償責任を負うか。
規範
1. 不法行為(民法709条)の成立には、加害者の故意または過失が必要であり、将来の政治情勢や戦争の結果といった予測困難な事態については、特段の事情がない限り予見可能性を否定する。 2. 国が条約に基づき領土権を放棄し、その結果として国民が当該地域の不動産所有権を喪失した場合であっても、憲法29条3項等の趣旨に照らし、直ちに国が土地収用と同等の補償義務を負うものではない。
重要事実
上告人の二男Dは、昭和18年7月6日、朝鮮忠清南道の代表者等から朝鮮内の不動産を買い受けた。その後、日本国の敗戦により、日本国民は朝鮮における不動産所有権を喪失した。上告人は、売買契約当時、日本国の敗戦とそれに伴う所有権喪失が不可避であったにもかかわらず漫然と売却したことは不法行為にあたると主張し、また、国の領土権放棄に伴う損失は土地収用と同様に補償されるべきであるとして、国(被上告人)に対し損害賠償を求めた。
あてはめ
1. 昭和18年7月の売買当時、将来の敗戦やそれに伴う日本国民の朝鮮内不動産所有権喪失を予測し得た、あるいは過失により予測できなかったと認めるに足りる証拠はない。したがって、不法行為の要件である過失は認められない。 2. 日本国が朝鮮の独立を承認し領土権を放棄したことは、国際情勢の変遷に基づく国家行為であり、これに伴う私有財産の喪失を当然に土地収用法上の収用と同一視することはできない。ゆえに、国に対する補償請求や賠償請求の根拠は認められない。
結論
敗戦による資産喪失について国の不法行為責任や補償責任は認められない。したがって、上告人の請求を棄却した原審の判断は正当であり、本件上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、在外財産(私有財産)の喪失に関する国の責任を否定した一連の「在外資産補償」に関する判例の一つである。答案上は、憲法29条3項の「正当な補償」の要否や、不法行為における過失の判断基準(予見可能性)が問題となる事案において、戦争のような不可抗力に近い歴史的事態における国の免責を肯定する文脈で参照し得る。
事件番号: 昭和36(オ)470 / 裁判年月日: 昭和38年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の委員による判断が、過去の調停の存在にもかかわらず事実関係に基づき合理的な解釈として行われたものであるならば、その職務執行につき故意または過失があったとは認められない。 第1 事案の概要:上告人と訴外Dの間には、本件農地の小作関係について昭和21年4月15日に成立した調停が存在していた。しか…