判旨
不当な反対給付を条件とする履行の提供は「債務の本旨に従った」ものとはいえず、その後の供託も供託原因を欠き無効である。また、供託金取戻請求権が転付され執行債権者がこれを取り戻したときは、民法496条1項の類推適用により供託は遡及的に効力を失う。
問題の所在(論点)
1. 義務のない反対給付(自己の持分上の抵当権抹消)を条件とした代金提供が、債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)といえるか。 2. 供託金取戻請求権が転付命令により第三者に移転し、現実に取り戻された場合、供託の効力(債務消滅効)はどうなるか。
規範
1. 債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)といえるためには、債権者の受領を妨げるような不当な条件を付してはならない。特に、契約上の義務にない過大な反対給付を要求してなされた提供は、債務の本旨に従ったものとは認められず、供託原因(同法494条)も具備しない。 2. 供託金取戻請求権に対する転付命令に基づき、執行債権者がこれを行使して供託金を取り戻した場合には、債務者自身が取り戻した場合と同様、民法496条1項により供託は遡ってその効力を失う。
重要事実
共有物分割調停により、上告人A(買主)が被上告人Bら(売主)から土地持分を買い取り、代金3万円を支払う旨の合意が成立した。調停条項には「売主側の持分に負担がないことを確保し移転登記する」旨があったが、Aは、代金提供の際、自身の持分に設定されていた抵当権の抹消までをも要求し、これが容れられないとして代金を支払わず、後に同額を供託した。その後、Aに対する別の債権者Eが、Aの供託金取戻請求権を差し押さえ、転付命令を得て供託金を取り戻した。
あてはめ
1. 本件調停条項の趣旨は「売主側の持分」の負担抹消を指すものであり、A自身の持分の抵当権抹消まで義務付けるものではない。したがって、Aが本来義務のない抹消を要求して代金の支払を拒んだことは、債務の本旨に従った提供とはいえない。ゆえに、被上告人らに受領拒絶の事実はなく、供託原因を欠くため、本件供託は弁済の効力を生じない。 2. 仮に供託が有効であったとしても、供託金取戻請求権の転付を受けた者がこれを行使した以上、供託者が自ら取り戻した場合と法的に同視できる。民法496条1項に基づき、供託による債務消滅の効力は遡及的に消滅したと解するのが相当である。
結論
Aの代金提供は債務の本旨に従ったものではなく、本件供託は無効である。また、転付命令による取戻しによっても供託の効力は遡及的に失われるため、Aは代金支払義務を免れない。
事件番号: 昭和36(オ)952 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
反対給付に関する約旨の一部について解釈が分れ意見が対立している場合に、その部分の先履行を要求しながら代金の提供をしても、債務の本旨に従つた履行の提供とはいえない。
実務上の射程
弁済の提供や供託の有効性が争われる場面で、相手方に過大な要求をしていないかを確認する規範として活用できる。また、供託後の事情(取戻請求権の差押・転付)が供託の効力に与える影響について、民法496条1項の適用範囲を示す重要な基準となる。
事件番号: 昭和33(オ)1128 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
甲が乙から宅地を買受けその旨の所有権取得登記を経由したのち、乙の債務不履行を原因として右売買契約が解除された場合には、甲は乙に対し右登記の抹消登記手続を求めることができる。
事件番号: 昭和36(オ)258 / 裁判年月日: 昭和39年12月22日 / 結論: 破棄差戻
貸金債権を担保する不動産の売買予約完結権につき右債務を弁済したときは予約完結権のための所有権移転請求権保全の仮登記を抹消する旨の調停が成立した場合において、調停条項に右予約完結権の行使の効果について明記されておらずその他判示事情のもとでは、右調停により、前記予約完結権の行使の効果が当初の代物弁済的性質から、いわゆる清算…
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
事件番号: 昭和35(オ)153 / 裁判年月日: 昭和36年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟上の和解において確定された条項の解釈は、和解に至る経過や関連する登記等の事実関係、条項の文言に照らして判断されるべきであり、確定した和解内容が従前の法律関係と異なる場合であっても、和解の効力(民法696条)によりその内容が拘束力を持つ。 第1 事案の概要:訴外Dと訴外E殖産株式会社との間で、本…