反対給付に関する約旨の一部について解釈が分れ意見が対立している場合に、その部分の先履行を要求しながら代金の提供をしても、債務の本旨に従つた履行の提供とはいえない。
債務の本旨に従つた履行の提供とはいえない事例。
民法493条
判旨
債務の本旨に従わない履行の提供は、債権者が受領を拒絶したとしても弁済供託の要件を欠き無効である。また、供託に本来の債務免脱効が認められない場合、原則として言語上の提供としての効力も認められない。
問題の所在(論点)
不当な条件を付した代金の提供に基づく供託が弁済としての効力を有するか。また、供託が本来の効力を有しない場合に、言語上の提供として債務不履行責任を免れさせる効力を有するか。
規範
1. 弁済供託(民法494条)が有効であるためには、前提として債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)がなされていることを要し、不当な条件を付した提供は債務の本旨に従ったものとはいえない。2. 供託に債務免脱の効力が認められない場合であっても、言語上の提供(民法493条但書)としての効力を有し債務不履行責任を免れる場合があり得る。しかし、そのためには「債権者があらかじめ受領を拒んだ」または「債務の履行について債権者の行為を要する」という前提要件を具備しなければならない。
重要事実
共有物分割調停により、上告人Aが被上告人Bらに代金3万円を支払い、Bらが持分移転登記をすることが合意された。Aは代金支払の際、調停条項の解釈を誤り、Bらに対し「A自身の持分に対する抵当権抹消」という不当な条件を要求して代金を提供した。Bらがこれを拒んだため、Aは代金3万円を供託したが、後にAの債権者が供託金取戻請求権を差し押さえ、転付命令に基づき供託金が取り戻された。Aは、当該供託により債務は消滅した、あるいは少なくとも債務不履行責任は免れていると主張した。
事件番号: 昭和36(オ)953 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当な反対給付を条件とする履行の提供は「債務の本旨に従った」ものとはいえず、その後の供託も供託原因を欠き無効である。また、供託金取戻請求権が転付され執行債権者がこれを取り戻したときは、民法496条1項の類推適用により供託は遡及的に効力を失う。 第1 事案の概要:共有物分割調停により、上告人A(買主…
あてはめ
1. 本件調停条項の趣旨は「Bらの持分の負担抹消」を指すものであり、Aが要求した「A自身の持分の負担抹消」は不当な要求である。したがって、Aの代金提供は債務の本旨に従ったものとはいえず、Bらがこれに応じなかったとしても受領拒絶には当たらない。ゆえに供託原因を欠き、本件供託は弁済の効力を生じない。 2. 言語上の提供の効力について、本件ではBらが代金受領自体を拒否した事実はなく「あらかじめ受領を拒んだ」とはいえない。また、代金支払債務は債権者の行為を要する債務(取立債務等)でもない。したがって、民法493条但書の要件を欠くため、債務不履行責任を免れる効力も認められない。
結論
本件供託は無効であり、債務免脱の効力も債務不履行責任を免れる効力も生じない。
実務上の射程
同時履行の抗弁権が絡む事案で、不当な反対給付を条件として提供・供託した場合の効力を否定する際に活用できる。また、供託が有効な提供を欠いて無効な場合でも、別途「言語上の提供」としての要件を検討すべきという二段構えの思考プロセスを示す実務上重要な判例である。
事件番号: 昭和44(オ)852 / 裁判年月日: 昭和46年9月21日 / 結論: 棄却
債務の一部ずつの弁済供託がなされた場合であつても、各供託金の合計額が債務全額に達したときは、その全額について有効な供託があつたものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和32(オ)916 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売却の委託において、受託者が委任状を取得する際に欺罔行為があったとは認められず、委託者が特定の条件の充足を重視して自ら売却を決意し委任状を交付した場合には、民法96条1項の詐欺による取消しは認められない。 第1 事案の概要:上告人(委託者)は、a町の土地建物の処分について、訴外Dの同意がある…
事件番号: 昭和36(オ)892 / 裁判年月日: 昭和38年6月14日 / 結論: 破棄差戻
中間省略登記の請求を認容するには、右省略について登記名義人、中間者の同意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…