債務の一部ずつの弁済供託がなされた場合であつても、各供託金の合計額が債務全額に達したときは、その全額について有効な供託があつたものと解するのが相当である。
債務の一部ずつの弁済供託が債務全額に達した場合と供託の効力
民法494条
判旨
本来、債務の一部の弁済供託は無効であり、債務を消滅させる効力を有しないが、数回に分けてなされた一部供託の合計額が全債務額に達する場合には、全体として有効な供託となり、債務は消滅する。
問題の所在(論点)
数回に分割してなされた弁済供託が、最終的に全債務額に達した場合、その供託は有効として債務消滅の効力を有するか。債務の一部の供託が原則として無効であることとの関係が問題となる。
規範
債務の弁済供託において、一部の供託は原則として無効であり、供託部分に相当する債務を免れさせるものではない。しかし、一部の供託であっても、後の供託と合わせて合計額が全債務額に達するような場合には、全債務額について有効な供託があったものと解するのが相当である。
重要事実
売主である上告人と買主である被上告人との間で土地建物の売買がなされ、残代金は324万6528円であった。上告人は別途の植木代金を含まない残代金の提供では受領しない旨を明示し、受領拒絶が明らかであった。そのため被上告人は供託を行ったが、その内訳は昭和31年2月に約96万円、同年4月に220万円、昭和34年11月に約8万円と計3回に分かれていた。最終的な供託の合計額は残代金額に達していたが、各時点では一部供託に留まっていた。
事件番号: 昭和36(オ)952 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
反対給付に関する約旨の一部について解釈が分れ意見が対立している場合に、その部分の先履行を要求しながら代金の提供をしても、債務の本旨に従つた履行の提供とはいえない。
あてはめ
本件において、被上告人が行った3回の供託は、個別に見ればいずれも本来の残代金額324万6528円に満たない一部の供託であった。しかし、最終的に昭和34年11月の供託をもって、その合計額は全債務額に達している。このように、分割された各供託が積み重なることで全債務をカバーするに至った場合には、全体として全債務額の供託があったものと評価できる。したがって、当初は一部供託であっても、最終的に全額に達した時点をもって、有効な供託としての効力を認めるべきである。
結論
被上告人の弁済供託は有効であり、売買代金債務を免れさせるものと解される。
実務上の射程
弁済供託の有効性(民法494条等)に関する判断。一部供託は原則無効であるという鉄則を前提としつつ、事後的に全額が揃った場合の有効性を認めることで、債務者の救済を図る法理として位置付けられる。答案上は、供託時に一部であっても、全額が完納された実態があれば有効とし得る例外処理として用いる。
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和41(オ)352 / 裁判年月日: 昭和41年10月20日 / 結論: 棄却
競売法による競売手続において、その手続の完了前に競売の基本である抵当権が消滅した場合には、右消滅による抵当権抹消登記手続を経由すると否とを問わず、競落人は目的不動産の所有権を取得できない(昭和三七年(オ)第一一二号同年八月二八日第三小法廷判決、民集一六巻八号一七九九頁参照)。
事件番号: 昭和26(オ)542 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 破棄差戻
昭和二〇年法律第六四号による改正後の農地調整法第六条の二所定の最高制限価格を超える額を対価と定めたとの事実のみでは、その農地の売買契約自体を全面的に無効とは為し難い。
事件番号: 昭和41(オ)802 / 裁判年月日: 昭和46年12月16日 / 結論: その他
甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。