判旨
不動産売却の委託において、受託者が委任状を取得する際に欺罔行為があったとは認められず、委託者が特定の条件の充足を重視して自ら売却を決意し委任状を交付した場合には、民法96条1項の詐欺による取消しは認められない。
問題の所在(論点)
受託者が委任状を取得するにあたり、委託者が重視していた事情(第三者の同意)の存在を伝えて委任状を交付させた行為が、民法96条1項の詐欺に該当するか。
規範
意思表示の取消し(民法96条1項)が認められるためには、表意者が他人の欺罔行為によって錯誤に陥り、その錯誤に基づいて意思表示をしたという因果関係が必要である。受託者が委任状を取得する過程において、委託者が重視していた主観的条件が充足されていると信じ、その信頼に基づいて自発的に委任の意思決定を行ったのであれば、欺罔行為による瑕疵ある意思表示とはいえない。
重要事実
上告人(委託者)は、a町の土地建物の処分について、訴外Dの同意がある旨を記した被上告人(受託者)からの手紙を使者Fを通じて受け取った。上告人は、a町の物件売却を重視しており、Dの同意があったことを受けて、同物件だけでなくbの土地についても売却する決心をし、被上告人名義の委任状8通に押印してFに交付した。後に上告人は、委任状の取得につき詐欺があったと主張して、売託の意思表示の効力を争った。
あてはめ
上告人が本件不動産売却において最も重視していたのはa町の土地建物であり、これについてDの同意があったことが判示により適法に確定されている。上告人は、この同意があることを前提として、自らbの土地についても売却する決心をした上で、自発的に委任状に押印・交付している。したがって、被上告人が上告人を欺いて委任状を取得したという事実は認められず、上告人の意思表示に欺罔に基づく錯誤があったとはいえない。
結論
被上告人による詐欺行為は認められず、上告人の委託の意思表示は有効である。したがって、詐欺による取消しを認めなかった原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和32(オ)471 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】信義則(民法1条2項)および禁反言の法理の適用について、原判決の認定した事実関係に照らせば、その主張を排斥した判断は正当である。具体的判決文からは詳細な事実や法的構成は示されていないが、信義則違反の成否は確定した事実関係に基づき判断される。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の認定した事実関係が信…
実務上の射程
本判決は、詐欺の成否を判断するにあたり、表意者が意思決定のプロセスにおいて何を「重視」していたかという主観的態様と、それに対応する客観的事実の有無を重視する。司法試験においては、詐欺の要件である「欺罔行為」および「因果関係」を検討する際、表意者が納得して自発的に意思決定を行っている事実(特に重視していた条件の充足)を指摘して詐欺を否定するあてはめの手法として参考になる。
事件番号: 昭和36(オ)760 / 裁判年月日: 昭和38年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表示行為に対応する真意がないことを表意者が自覚しながら行う心裡留保(民法93条)の成否について、表意者が登記名義の移転や付随する契約の締結を十分承認して行っていた場合には、有効な贈与の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人から本件建物の贈与を受けたと主張し、所有権移転の…
事件番号: 昭和32(オ)619 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条にいう「正当の理由」とは、第三者(相手方)において代理人に権限があると信ずるにつき過失がないことを意味し、過失がある場合には表見代理は成立しない。 第1 事案の概要:上告人(相手方)は、代理権を欠く者との間で取引を行ったが、原審において、当該代理人に権限があると信ずるにつき上告人に過失…
事件番号: 昭和32(オ)323 / 裁判年月日: 昭和35年3月17日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】追奪を免れるために名義を第三者に仮託する目的でなされた売買が、通謀虚偽表示に当たらない真実の売買と認められるためには、代金額、支払時期、登記手続の態様、費用の負担等の諸事情が経験則に照らして合理的であることを要する。 第1 事案の概要:上告人の父Fは、Dから山林を買い受けたが、Dの家督相続を巡る紛…
事件番号: 昭和36(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
上告理由として原審に提出した準備書面を引用するというだけの部分は、適式な上告理由書とならない。(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)