心裡留保に基づく贈与が相手方の悪意のために有効とされなかつた事例。
判旨
表示行為に対応する真意がないことを表意者が自覚しながら行う心裡留保(民法93条)の成否について、表意者が登記名義の移転や付随する契約の締結を十分承認して行っていた場合には、有効な贈与の成立を認めることはできない。
問題の所在(論点)
上告人への所有権移転の意思表示が心裡留保にあたり、贈与として有効に成立するか。具体的には、形式的な名義変更に際して贈与の真意があったといえるか。
規範
心裡留保(民法93条1項)とは、表意者が表示行為に対応する真意のないことを知りながらする意思表示をいう。その判断にあたっては、表示行為に至るまでの経緯、関連する書面の作成状況、当事者間での合意内容などの客観的事実に基づき、表意者に真に法律効果を発生させる意思があったか否かを検討すべきである。
重要事実
上告人は、被上告人から本件建物の贈与を受けたと主張し、所有権移転の心裡留保による有効性を主張した。しかし、実際には本件建物の登記名義を上告人にする際、上告人は被上告人に対し売渡証書や委任状を交付し、被上告人を権利者とする所有権移転請求権保全の仮登記を了していた。さらに、上告人は家賃を支払わない代わりに公租公課や地代を負担し、特定の会社員である期間に限り本件建物に入居するという使用貸借契約を締結することを自ら承認していた。
あてはめ
上告人は、建物の登記名義を自己に移す際、真実の所有者である被上告人の権利を守るための仮登記設定や、将来の返還を前提とした書類の交付、さらには限定的な使用貸借契約の締結を「十分承認」していた。これらの事実は、上告人が本件建物を無償で確定的に取得する(贈与を受ける)という真意を持っていなかったことを強く推認させる。したがって、単なる名義移転の手続きをもって、贈与の意思表示が有効に存在したとは認められない。
事件番号: 昭和32(オ)131 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売主の表示した意思が特定の会社に売却する趣旨であった場合には、内心的効果意思と表示行為の間に不一致がないため、心裡留保(民法93条)が適用される余地はない。 第1 事案の概要:本件土地の所有者Dと、B電気鉄道株式会社の代表者である上告人との間で、本件土地の売買契約が締結された。その際、Dと上告人の…
結論
本件贈与の成立を認めることはできず、上告人の心裡留保に基づく有効性の主張は採用できない。
実務上の射程
意思表示の存否や心裡留保の成否が争われる場面で、登記等の形式的事実だけでなく、それと並行して作成された反対文言(仮登記や委任状)や、占有の権原を定める別契約(使用貸借等)の存在がいかに真意の認定に影響するかを示す事案である。答案上は、93条の適用の前提となる「意思表示」の認定における認定手法として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
上告理由として原審に提出した準備書面を引用するというだけの部分は、適式な上告理由書とならない。(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
事件番号: 昭和32(オ)916 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売却の委託において、受託者が委任状を取得する際に欺罔行為があったとは認められず、委託者が特定の条件の充足を重視して自ら売却を決意し委任状を交付した場合には、民法96条1項の詐欺による取消しは認められない。 第1 事案の概要:上告人(委託者)は、a町の土地建物の処分について、訴外Dの同意がある…
事件番号: 昭和36(オ)342 / 裁判年月日: 昭和36年11月30日 / 結論: 棄却
事務管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然には本人に及ぶものではない。