事務管理者は、有益費の支出を他人から横領した金銭をもつてなした場合でも、本人に対する償還請求権を取得できる。
横領金による有益費の支出と事務管理費用償還請求権の成否。
民法702条1項
判旨
事務管理者が他人の金銭を横領して本人のために有益費を支出した場合であっても、受領者がその金銭の所有権を有効に取得する以上、事務管理者は本人に対して有益費の償還を請求できる。
問題の所在(論点)
事務管理者が第三者の金銭を横領して費用の支出に充てた場合、当該支出は民法702条1項の「有益な費用」の支出として認められ、本人に対する償還請求権が生じるか。
規範
事務管理(民法702条1項)に基づく有益費償還請求において、支出された金銭の出所が管理者の自己資金であるか、あるいは他人の金銭を横領したものであるかは、請求権の成否に影響しない。金銭を受領した相手方がその所有権を取得する限り、管理者の自己負担による支出と別異に解すべき理由はないからである。
重要事実
上告人らはEから50万円を借用したが、弁済期を過ぎても返済の見込みがなかった。貸借を斡旋した被上告人は、その責任を感じて立替払いを決意した。被上告人は勤務先(水産庁)で保管中であった売却代金30万円を横領し、それが公金であることを知らないEに対し、上告人らの債務の一部弁済として支払った。被上告人は、上告人らに対し事務管理に基づく有益費償還を請求した。
あてはめ
金銭は占有と所有が一致し、不法に持ち出された金銭であっても、それを受け取る相手方(E)は、特別の事情がない限り完全な所有権を取得する。本件では、Eは公金である事実を知らずに受け取っており、有効な弁済がなされたといえる。この場合、形式的には他人の金銭であっても、被上告人が実質的にその価値分を負担して債務を消滅させたことになり、自己の金銭を支払った場合と異ならない。これを否定すると、上告人らは債務を免れる一方で、被上告人は国への賠償義務と求償権喪失という二重の損失を被ることになり、かえって公平に反する。
結論
被上告人による公金の横領による弁済であっても事務管理は成立し、上告人らに対する有益費償還請求は認められる。
実務上の射程
事務管理の費用償還請求において、費用の原資が不法行為(横領等)によるものであっても、対外的に有効な出捐がなされたと評価できる限り、本人との関係では求償が認められることを示した。答案上は、費用の「支出」の有効性と、事務管理制度の目的である「公平の理念」を根拠に論証する際に有用である。
事件番号: 昭和39(オ)1198 / 裁判年月日: 昭和40年3月25日 / 結論: 棄却
選挙費用の法定額をこえて支出される関係にあることを知りながら候補者のために選挙費用の一部を立て替えた場合でも、右立替は不法原因給付にあたらないと解するのが相当である。