判旨
公職選挙法上の「住所」の認定において、客観的な事実関係により生活の本拠が当該地にないことが明らかに判定できる場合には、本人の主観的意欲を考慮する必要はない。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の「住所」の認定において、客観的事実により生活の本拠がないと認められる場合に、本人の主観的意欲を考慮すべきか。また、かかる認定手法は憲法22条に抵触するか。
規範
公職選挙法上の「住所」とは、当該個人が自由に選択した生活の本拠(生活の中心)を指す。その認定にあたっては、客観的事実によって生活の本拠が当該地に存在しないことが明らかに判定できる場合には、本人の主観的意欲(当該地に住所を置く意図等)を考慮する余地はない。
重要事実
上告人は、a村に住所を有することを前提に選挙権や被選挙権(公職選挙法9条、10条)を主張したが、原審において客観的な生活実態に基づきa村に住所がないと認定された。これに対し上告人は、住所の認定には客観的側面だけでなく、そこに至る経緯や本人の主観的意欲を考慮すべきであり、原判決の認定手法は法の解釈を誤り憲法22条(居住・移転の自由)にも反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では客観的事実に基づき、上告人の住所がa村にないことが既に明らかに判定できる状態にある。このような場合、居住に至る経緯や「ここに住所を置きたい」という主観的な意向を重ねて検討する必要はない。また、住所の認定は個人の自由な選択に基づく生活の中心を特定する作業に過ぎず、居住・移転の自由を制限するものではないため、憲法22条の問題とは無関係である。
結論
客観的事実により住所の不在が明らかな以上、主観的意欲を考慮しなかった原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和29(オ)808 / 裁判年月日: 昭和30年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法及び地方自治法上の「住所」とは、生活の本拠すなわちその者の生活に最も密接な関係を有する場所を指し、客観的な居住の実態や生活関係の諸事情を総合して判断される。 第1 事案の概要:被上告人はa村内の自宅を使用して起居し、村内の金融機関出張所長を務め、相当の不動産を所有して自作農も行っていた。…
公職選挙法上の住所(生活の本拠)の認定手法について、客観主義的な判断枠組みを明確に示したもの。特に「客観的事実で明白な場合は主観を考慮不要」とする点は、架空の住所登録などを排除する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)734 / 裁判年月日: 昭和31年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の自書式投票において、候補者の氏名の一部に誤記がある場合であっても、全候補者の氏名との照合により特定の候補者に対する投票の意思が客観的に認められるときは、当該投票は有効である。 第1 事案の概要:本件選挙において、ある投票用紙に記載された氏名の「氏」は「D」であり、「名」の二字のうち一…
事件番号: 昭和27(オ)1065 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙権の要件たる「住所」の移転について、生活の実態に基づいて判断すべきであり、特定の選挙期日までに旧住所地から新住所地へ拠点を移した事実が認められる場合には、住所の移転が認められる。 第1 事案の概要:岐阜県議会議員選挙において、原審参加人Cの選挙権の有無が争点となった。Cは昭和26年4月30日の…
事件番号: 昭和32(オ)552 / 裁判年月日: 昭和32年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の「住所」とは、単に本人の主観的な居住意思だけではなく、客観的に生活の本拠たる実体を伴う場所を指す。したがって、住所とする意思があっても、客観的な生活の実体が認められない場合は、同法上の住所とは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、昭和29年12月下旬以来、横須賀市内の特定の場所…
事件番号: 昭和27(オ)859 / 裁判年月日: 昭和28年5月15日 / 結論: その他
一 村長選挙に立候補するため、村議会議員を辞職する旨村役場において村議会書記に口頭をもつて申し出た場合、その申出は辞職申出としての効力を有する。 二 公職選挙法八九条によると公務員は原則として在職のまま公職の候補者となることはできないのであるが、それにもかかわらず公務員が在職のまま立候補の届出をした場合に選挙長はその届…